恋愛が分からない
「好きです」
私は昨日、同じクラスの男子、大里くんに告白された。下の名前は、えっと、優斗だっけ。でも、どうしたらいいか分からなかった。よく彼とはおしゃべりするけれど、私はそんな風に好きなんて思ってなかった。ただの仲のよい友達だと思っていたし、今もそう思ってる。でも、彼からはそうは見えていなかった。彼にとって私は恋愛対象であり、しかも彼はその対象の中から私を選んだのだ。それはありがたいことだし珍しいことでもある。それに人から好かれるというのは概して嬉しい。
しかし、一つ問題があるとするならば、まあ、それが最大の問題なのだけれど、私が大里くんのことが好きじゃないということだ。でも、別にこれは彼に原因があるとかいうわけじゃない。仮にこのことを彼に伝えたとしたら、彼は自分に魅力が無いせいだと嘆くだろうが、その必要は無いと思う。だって私は誰のことも好きになったことがないのだから。なんか最近はそういう人も多いらしい。愛というものが分からないのだ。もう少し詳しく言えば、友愛と恋愛の違いが分からないのだ。
だから私は恋愛として人を好きになったことがないというのが正確な言い方だ。友達として好きになることはあっても、恋人として好きになったことがないとも言える。こんなことを大里くんに言っても意味はないし、混乱させるだけだろう。でも、彼のことは置いといても、人のことを恋愛感情として好きになるということをもっと詳しく知りたい気もする。love と like の違いなんて世間では言うのだろうか。じゃあ、我が家でもついに購入した人工知能搭載の人型ロボットに訊いてみようか。ちなみにもっと高価なものだと、見た目まで人間そっくりの商品も売っている。
「ねぇねぇ教えて、恋愛感情として好きになるってどんな感じ?」
ちなみに「ねぇ、ねぇ教えて」というのは質問をするときの定型フレーズだ。
「ええーと、ええーと。一度その人のことを考えると止まらなくなって、居ても立っても居られなくなる感じですかね。なんかこう、心臓がばくばくするような」
思ってたよりくだけた答えが返って来たので驚いている。もっと辞書的な、データベースから引っ張り出したような答えが返ってくるかと思っていた。それにしても、心臓を持たないロボットから「心臓がばくばくする」という言葉を聞くとは思ってもみなかった。時代も進んだものだ。じゃあ、もう一つ。
「ねぇ、ねぇ教えて。なんで大里くんは私のことを好きになったの?」こう聞きながら、そんなの分かるわけないよね、と思っていると、
「大里くんの下の名前と漢字を教えてください」
「え、優斗くんだけど。優しいのゆうに北斗七星のと」
「ありがとうございます。質問の答えにはなっていないですが、、、」
「うん、教えて」
「大里優斗は製品番号3021の人型ロボット精巧モデルです」
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