頭の中に回遊魚

 あなたにゆずったバイオリン、花壇でネズミがくるんでる

 あなたにもらったチョココロネ、浜辺でヒグマが砕いてる


 久しぶりだ、この感覚。何か考え事をしている時にふと、この二文が頭の中に浮かんでくる。まったく意味が分からない文章なのだが、毎回同じ文章なのだ。


 あなたにゆずったバイオリン、花壇でネズミがくるんでる

 あなたにもらったチョココロネ、浜辺でヒグマが砕いてる


 ほら、また来た。噂をすれば何とやらだ。そもそも意味が分からない。バイオリンとネズミも合わないし、ネズミがくるむというのも気持ちが悪い。生きているネズミが、わぁっとバイオリンの周りに密集しているということなのだろうか。それに呼応するように唱えられるもう一方の文も怖い。チョココロネと浜辺がマッチしないのはもちろんのこと、チョココロネを砕くという意味が分からない。しかも主語はヒグマ。本当に意味が分からない。やめよう、なんか具体的にイメージしたら気分が悪くなってきた。


 他のことでも考えよう。明日、仕事でやらなければならないこととか。明日も朝からのぼりを出さなければならない。天気が崩れるらしいから、あんまりやりたくないけれど私の担当だから仕方ない。ああ、そういえばあの上司に報告書を出さなければならない。


 あなたにゆずったバイオリン、花壇でネズミがくるんでる

 あなたにもらったチョココロネ、浜辺でヒグマが砕いてる


 ああ、まただ。幼少期くらいからこの言葉が脳内に流れるようになり、社会人になって数年の今でも聞こえている。もしかしたら嫌なことを思い浮かべてるときにこの言葉が流れてくるのかもしれない。にしても、もうちょっとなんかきれいな文章とかが流れてくればいいのに。なんでこう奇妙な文章なのだろうか。文法の観点からは成り立っているが、意味を成していないみたいな。


 あなたにゆずったバイオリン、花壇でネズミがくるんでる

 あなたにもらったチョココロネ、浜辺でヒグマが砕いてる


 そういえば最近、チョココロネ食べてないな。というかパンを食べてない気がする。朝も冷凍ご飯だし昼は支給される弁当。晩はコンビニ弁当か茹でて和えただけのパスタか、もしくはごはんにレトルト食品をかけたもの。なんか、こういう気味の悪い言葉が流れてくるんだって誰かに言ってみたいなぁ。話を聞いてもらいたい。


 あなたにゆずったバイオリン、花壇でネズミがくるんでる

 あなたにもらったチョココロネ、浜辺でヒグマが砕いてる


 そっか、こうやって相手を思い浮かべて、その人の頭の中に送ればいいんだ。こうすれば共感してもらえる。一応もう一回やっておこう。


 あなたにゆずったバイオリン、花壇でネズミがくるんでる

 あなたにもらったチョココロネ、浜辺でヒグマが砕いてる

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