風邪をひいた歩

 最近、ひよこから成鳥になりかけてきたあゆむはちょっと体調が悪い。


「ねえ、お母さん。なんか、ちょっと体調が悪い気がするんだけど」

「あら、そうなの。大変だね。昨日、雨の中お外で遊ぶからだよ。とりあえず寝ときなさい」

「だって楽しかったんだもん」

「それは分かるけどさぁ。まあ、お話はあとでたくさん聞いてやるから、とりあえず、寝なさい」

「うん」

「ああ、あと、あんたもそろそろお兄ちゃんになるからね、しっかりしておくれよ」

「え、そうなの。うれしい」

「あら、言ってなかったかい。そうだよ、お兄ちゃんになるんだよ」

「うれしい、うれしい。妹かな。それとも弟かな」

「多分、弟だと思うよ」

「そっか、うれしい。やったー。ねえ僕、お兄ちゃんだよ。お母さん」

「そうだねぇ。分かったから、うんうん、うれしいね。でも、ほら寝とくんだよ。そんなに騒いだら熱上がっちゃうからね。ちょっと見せてごらん」

「はーい」

「うん、触ってみた感じだといつもよりちょっと高いかもねぇ。とりあえず、寝ときなさい。水はこまめに飲むんだよ」

「はいはい。じゃあね」

「うん、お母さんはやることがあるからね。おとなしくしておくんだよ」


 歩のお母さんは鶏たちのリーダー的な存在で、いつも他の鶏たちの世話をしたり、愚痴を聞いたりしている。だからこうやって昼間はみんなのところに行く。この間に歩は友達と遊んだりするのが日課である。あいにく今日は風邪気味で寝とくように言われてしまったわけだが。歩は言いつけを守っておとなしくしていたが、それも長くは続かなかった。


 どうせ外に遊びに行ってもバレないよな。それにもう、お母さんが出ていってから一時間は経ったから、割と遠くのところまで行っているはずだ。それなら外に出ていくところは見られないはず。友達たちにも口止めしておけば問題ないはず。


 どうしても遊びたい歩はこう考えて、そおっと外に出た。いつもの場所にはもう、みんなが集まっている。


「おお、歩。風邪は大丈夫なのかよ」

「そうよ、風邪気味で寝てるんじゃなかったの」

「え、うん。体調ちょっと悪いけど、なんで知ってるの」

「でしょ、体調悪いなら無理せず寝ときなさいよ」

「そうだぞ、心配してただろ、お前のお母さんも」

「うん。そっか、お母さんから聞いたのか」

「そうそう、歩のお母さんが来て、今日は遊びに来ても寝かしてやってくださいって」

「まあ、もう気分もよくなったし大丈夫だよ」

「ほんとか。まあお前がいいって言うならいっか」


 こんな感じでみんなと遊んだ歩だったが案の定、体調は悪化し高熱が出ていた。それでもこっそり遊びに行ったことはバレていないようだった。


「歩、大丈夫かい」

「お母さん、大丈夫だよ。寝てれば治るはずだよ」

「でも、そんな高熱、お母さんは心配だよ。ちょっと待ってなさい」

「あ、うん。じゃあ寝とくね」


 歩のお母さんが戻って来た。


「歩。これ食べて風邪治しなさい。たまご粥よ」

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