いやなことがない世界
もうこんな世界はいやだ。だから、最近発売されたガムを食べて解決しようと思う。まあ、このガムの効果が持続するのは一時間だけだけど。価格もかなり安く100円。ちなみに効果の対象も自分だけ。使い方、というか食べ方は簡単で○○な世界と言ってからガムを口に入れればいいだけ。
こんなに簡単で安価だからもちろん近隣のスーパーやコンビニ、薬局からは発売開始とともに姿が消え、多くの人が買えなかった。だから僕もあきらめていたのだけれど、小さい頃から通っていた駄菓子屋のおばちゃんが、
ところでどんな世界を望もうか。あんまり突飛なことや実現不可能なことを言うとさすがに無理という噂があった気がするから、重力の無い世界とかはやめておこうか。望んでうまく行かなくてもガムの効果は一度きりだから勿体ない。でもちっぽけなことをお願いして成功してもあまり面白くないし、、、。少し考えたあと抽象的なお願いをすれば、ほどよいレベルで実現してくれるのではないか、と思いついた。例えば5000兆円ほしいという願いは叶わないとしても、お金がいっぱいほしい、くらいの抽象度にしておけば、可能な限りの大金がもらえるのではなかろうか。でもお金はつまらない気がする。ということで決めた。
「いやなことがない世界がほしい」
さて、これで本当に自分が嫌悪感を持つ事態はゼロだろうか。そうならば大手を振ってはしゃぐのだけれど。よく考えれば試して初めて効果があるかが分かるので、アクションを起こしてみる。たとえば犬猿の仲のクラスメートに会うとか。自分でも本末転倒な気はするがまあ、効果があれば毒気が抜けてるはずで、その理論が正しければ嫌うほどの人物枠から抜け出した可能性もある。なんて思ってるとちょうど前から歩いてきた。あえて話しかけてみよう。普通だったら皮肉が返ってくるはずだ。
「よお。暇か」
予想は、お前の方が暇だろ。だが、さて。
「その俺に話してくるお前の方がよっぽど暇だろ。暇人」
捨て台詞だけが残った。効き目がゼロっぽいし、返事も予想より酷かった。結局100円で普通のガムを買っただけってわけか。まあ、現実とはそのくらいか。それとも高望みのしすぎか。僕はこう考えつつ帰ろうとしたが、変だ。表札が真っ白。僕の名字が彫ってあるはずだが。
そう思っていると表札に
ああ、ちょうど一時間経ったのか。
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