天の川周辺
一年に一回しか会えないなんてかわいそう。
こういう風に織姫と彦星は言われがちだが本当にそうだろうか。僕はまだ暗くなりきってない空を見上げながらそう思った。だって一年辛抱すれば絶対に会えるんだよ。雨が降って天の川が渡りづらくても何とかなるだろう。一年に一度の逢瀬なのだから彼らの親も手助けしてくれるかもしれない。
「ねぇ、ひこ」
「どうした?」
「なんかいま、あの辺からすごい羨ましがられた気がするんだけど」
「あの辺ってあの青い星らへん?」
「そうそれよ、あれ何て言うんだったかしら」
「あれは地球、だよ」
「ああ、私たちが一年に一回しか会ってないと信じてる、人間とかいう生物が棲んでる惑星ね。思い出したわ」
「そうそう。羨ましがられたってどういうこと?」
「多分、僕は一年に一回も会えないのに、みたいな感じだと思うわ」
「ああ、そういうこと。まだそんなお話信じてるんだね。自分たちはスマホとかいう機械まで発明して騒いでるのに」
「そうよね、ああいうので連絡取り合ってるとかは思わないのかしら」
「分かんないけど、何かロマンでも求めてるんじゃない?僕らに」
「ああ、そういうこと。惨めというか健気というか。何とも言えないわね」
だって僕は好きな人にもう会えない。会わないって約束したとかじゃない。でも僕が死んだわけでも相手が死んでしまったわけでもない。僕は会えないのが辛すぎて、絶対に会えないと割り切ることに成功したのだ。自らの記憶を消すことによって。これで僕は自分が誰のことを好きだったのかを思い出せない。だから、もしどこかで会っても「自分の好きな人」と認識することはできない。こうすれば僕は好きな人に絶対に会えない。ただ、昔好きな人がいた。その人のことを今でも好きだったが、もうその相手のことは何一つ覚えていない。という状況が生み出されただけだ。
「ひこ。そういえば地球では『思い出す』薬より先に『忘れる』薬が発明されたらしいわね」
「どうゆうことだい」
「思い出すことが難しいなら、思い出せないということさえ忘れてしまおう、ということらしいわ。まあ実際に技術的な難易度の違いもあるのかもしれないけれど」
「なるほど。でもそんなものが地球で発明されてるということは、この天の川流域ではとっくの昔に製造されてるはずだよね」
「ええ、そうね。それがどうかしたの」
「いや、僕の親父や、きみのお父様も鬼じゃなかったんだな、と思ってさ」
「確かにそうかもしれないわね」
僕は何気なく空を見上げた。そういえば天の川は一年中見えるらしい。
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