太陽さんと月さんのどっちが好き?

 道徳の時間。【太陽さんと月さん】というのが今日の内容だ。児童それぞれが太陽さんと月さんのどっちが好きかを考え、理由も含めて発表するという流れだ。今のところ太陽さんが優勢のようだ。別に正解・不正解も無ければ、多数派に属している方がよいというわけでもない。ちなみにこの教材を扱うときは多くの場合、太陽さんが好きだと言う児童の方が多い。その理由は大体こんな感じだ。


 月さんは太陽さんの光を反射しているだけだけど、太陽さんは自分で光っている。太陽さんの方が月さんよりずっと明るい。太陽さんは僕たちをあっためてくれる。太陽さんの方が大きい。太陽さんは朝が来たって教えてくれる。


 今日もこれらの理由と同じようなものが児童から出た。こういった理由はどれも筋が通ってるし、理科の授業で教えるような事実に基づいているものも多い。自分と違う意見を受け入れ、理解する力を伸ばしてもらおうと考えている立場である教員側も太陽さん派が多い。新しくこの教材を教えることになった先生に、指導のポイントを教えるときなども、個人的には太陽さんが好きですねと答える人の方が多い。たまに月さんの方が好きだと言う先生もいるが、理由を尋ねるとぱっとしないことがほとんどだ。ちなみに私も直感的には月さん派だが、その理由を明確に説明できたためしはない。

 そんなことをぼんやりと考えながら挙手している子を指名していると、はじめから手を挙げていた子どもたちは一通り発表し終わった。あまり強制みたいなことはしたくないのだけれど、自分の意見と違う意見を聞くことも授業の目的の一つだから、やはり月さん派の理由も聞きたい。この教材のときは結局こうなってしまうが致し方ない。月さんの方が好きな人はいないか聞いてみる。数人の子が手を挙げたので理由を教えてくれないかと訊いてみる。もちろん、正解や不正解はありませんからね、と念を押す。そうすると女子児童が一人、手を挙げてくれた。あまり発言を積極的にしない子だったので意外だったが、そのような思いは悟らせないようにしつつ、じゃあお願いします、と発言を促す。


 「はい。私は太陽さんがいないときに月さんが周りを照らしてくれるので月さんの方が好きです。」


 なるほど、でもそれは逆も言えることではないか。それに月が輝いていられるのは太陽の光を反射しているからだという意見は今日もすでに出ている。他の児童たちもそう思っていたらしく、その雰囲気を感じ取ったのか彼女は説明を続けた。


 「確かに、月さんは太陽さんがいないと光ることすらできません。でも、自分がいないとき、自分の代わりに月さんが周りを照らしてくれると分かっているから、太陽さんは他の場所を明るくしに行けるんじゃないでしょうか。だから私は太陽さんの心の支えになっている月さんの方が好きです。」

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