同じ側で

 男女間で友情は成立するか


 古代ギリシャの哲学者たちが示したような問いより年季は浅いかもしれないけれど、多くの人がこの問いの答えを考えてきたのは事実だと思う。この問いかけの裏には男女間では恋愛感情が湧くという前提があるんだと思う。ちなみに私は主たる古代ギリシャの哲学者の思想を勉強したけど、沙理はしてない。その代わり私の何倍も数学ができる。あんな文字の羅列が数に見えていることが信じられない。

 昨日、沙理の家で勉強したときも今日の考査に出そうなところの解説をしてもらったけれどチンプンカンプンだった。逆関数とやらの説明をしてくれたけど私にはよく分からなかった。それでも楽しそうに説明する沙理を見て、そこまで面白いものなら理解したいなと純粋に思った。

 私は沙理のことが好きだ。誰とでも仲良くできるといった感じではないけれど、心を開いた人には何でもしゃべってくれる感じ。上手に気遣いができるわけではないけれど思いやりは人一倍あるところ。あと、黒髪のショートで眼鏡というのが私のどストライクというのもあるけれど。でも私と沙理は女同士。男女間に――なんてことを思ったのも、裏を返せば同性間では恋愛感情なんて生まれないと言われているようなものだ、と気づいたからだ。

 沙理にはまだ私の気持ちを伝えていない。でも最近、沙理とどんどんと仲良くなって、距離が縮まって、少し私の方がぎこちなくなってきた。ことあるごとに沙理は私のことを友達としか思ってない、よくて親友だと自分に言い聞かせる日々だった。だけどそれも疲れてきた。毎回、毎回自分を否定しているような気持ちになる。だから、だから怖いけれど告白してみることにした。今日が考査の最終日で放課後、私の家でお菓子パーティーをする予定なのだ。担任の長い話のあと掃除を済まして廊下に出ると視界の端に沙理が見えた。




「沙理——」

「佳那どうしたの?」

「あのね、驚かないでね」

「うん」

「私、沙理のこと好きなんだ。ごめんね、こんなこと言って」

「謝んなくていいよ。私も佳那のこと好きだけど、、、そういう感じじゃない感じ?」

「うん、恋愛感情——。ごめんね、気持ち悪いね。女子同士なのにね。ごめんね。友達だもんね。ごめんね。違うか、友達ももう嫌だね。ごめんね」

「泣かないで、佳那。確かに、私は恋愛感情は佳那には抱いてないけど、嫌じゃないよ。でも、これも中途半端だね。ごめん」

「なんで沙理が謝るの。女子同士でこんなこと言ってるのは私なのに」

「佳那、あのね、女子同士だからねこうやってこんなに仲良くなれたんだよ」


 コップの中のソーダの泡がまた一つはじけた。

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