【分からないことと分かっていること】


【この世の中には分からないことと分かっていることの二つしか存在しない。いや、本当にそうだろうか。実際には分からないと分かった気になっていることしか存在しないのではないのだろうか。】


 分かった気になっていること。例えば――。人の思い。と急に重い話になっている気もする。まあ入りから、この世の中と謳ってはいるのだけれど。それに、人が何を考えているかなんて分からない場合が大抵で、そんなこととっくの昔に理解しているはずのに、時々なにやら思い上がって分かった気になってしまうのだから怖いものだ。


【分かった気になっていること、とは何だろうか。もしかしたら、これも二つに分けられるかもしれない。無意識のうちに分かった気になっていることと意識的に分かった気になっていること。言い換えれば、分かったことにしていること、だ。自分は分かっていると振る舞う場面というのは意外にあるのではないだろうか。ただカッコをつけたくて分かっているフリをする場合もあるけれど、分かっていると自分に言い聞かせて楽になろうとしている場合というのも少なくない気がする。】


 少なくとも私に関しては。味方をも騙す頭脳プレイというフレーズをたまに耳にしたりするが、言い聞かせるという行為は自分自身をも騙す行為なのではないだろうか。騙すとまではいかなくとも一時的に自らの思考を誘導する、そんな効果があるのではないだろうか。さて、自己啓発本の章の導入部分を書くのも中々大変なものだ。今回のは自己啓発というよりは心理解説に近いが。こんな風に文字に起こしてみると自分も読者気分になって一歩引いて愚考を見ることができる。同時に文字になることである種の正しさ、裏打ちを手に入れてしまうらしく、偉大な言説のようにも思える。ということで、段々言い聞かせることの力を自分も信じてきたので、ここで一つ自分に言い聞かせる実験をしてみるとしよう。


 僕は新卒で大手銀行に入行。6年で出世コースに手が届き順調にいけばある程度の地位までは確約されるという景色が見えたころ、何もできない無力な行員という地位に見切りをつけて職を辞す。その後、行員生活で感じたことをブログに書き連ねると思いのほか反響があった。そのまま有名ブロガーとなり執筆依頼が届く。これまた成功し現在は巷でホットな顔ぶれの仲間入り。いまこうして書いている原稿も、たくさんの仕事の中の一つだ。最近では起業の話も来ていたり、相談役の話も来ていたりと新たなステージも見えてきている。

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