妹がかわいいって友達がずっと言ってる

 柿本の妹は小学6年生らしい。俺たちはいま高校3年生だから12才と18才で6コ違い。柿本はよくしゃべる方ではないから、俺ともおはようだけで会話が終わる日もある。それでもたまに柿本が異常にうれしそうなときとか、幸せそうな顔をしてるときとかいうのがある。まあ、すっごい落ち込んでいるときというのもあるのだけれど。ごくたまに。


 「おはよ、柿本。なんか、いいことでもあった?」

 「あっ、おはよう。いいことっていうかねぇ、一昨日の夜、ちょっと英語の自己紹介の書き方を妹に訊かれたから、軽く教えたんだよ」

 「うん、うん」

 「そしたら授業でALTの先生に Perfect! って言われたらしくて」

 「おぉ、おぉ」ちなみに柿本は英語が非常に得意である。校内模試でもぶっちぎりの一位だ。英語に関しては。

 「それで、ありがとって言って昨日の夜抱きついてきたんだよ」どうやらこの話の起承転結の結の部分はこれらしい。何とまあ、恋人同士の話だったらのろけと斬られるだろうきれいな結末。

 「お、おぉ。それはよかった、ね。うん」どうにも微妙に歯切れの悪い俺の言葉に幾分か不満そうだが、それでも妹のことを思い出してまた、顔がにやけている。とまあ、ここまででも容易に分かるように柿本はシスコンである。ロリコンも入ってるのかもしれないけど僕に詳しいことは分からない。それに何歳ぐらいがロリータかなんて議題をいま考える気はない。つまり、柿本の機嫌は妹次第ということだ。柿本ならすぐに depend on とかいう英訳が思いつくのだろう。まあ、妹のことを考えているときの柿本は他のことなんて一切考えれないのだけど。


 そういえば去年の修学旅行のときも柿本は妹のことばかり考えていた。キレイな景色を見るたびに写真を撮って妹に送っていたし、土産物屋に行っても妹に渡すものばかり見ていた。おかげで柿本の妹愛を知らない同級生からは、柿本の趣味だと大きな勘違いをされていたが。そう考えると俺は柿本のことをよく知っている方なのかもしれない。ちなみに柿本の妹は水色が好きらしい。食べ物だとホワイトチョコが好き。大体一緒に行動していたせいでなぜか俺まで詳しくなってしまった。そんな俺を見て柿本がうれしそうだったのも事実だ。

 修学旅行から帰って数日したとき柿本が職員室に呼ばれた。柿本が教室を出た後、柿本、怒られるようなことしないのに珍しいね、と友達に言ってみた。

 柿本くんってシングルファザーだったのにそのお父さんも蒸発しちゃって、兄弟姉妹もいないから一人暮らしで、経済的な理由で修学旅行いけないかもってなってたけど補助が出て行けたとかいう話じゃなかったっけ。それで帰ってきたら補助の代わりになんか報告レポート書くとか書かないとか。


 帰り道、柿本は妹がおみやげを喜んでくれたと楽しそうに教えてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る