新入りに教える

 「初心者なのでよく分かんないです、、、」

 ここは、別にゲームをプレイしながらのチャットでは無い。仕事仲間とのチャットアプリでのやりとりだ。仕事といっても顔を合わせたりすることはないが。最近この課にも新入りが入って来た。こうやって新しい風が入るのはいつぶりのことだろうか。かなり前な気がする。

 「るんちゃん、オッケー! 呼びタメで大丈夫だよ!」

 「え、そうですか じゃあ、宇多さんよろしくです」

 この言葉遣いがタメなのか敬語なのかもはやよく分かんないがまあ、言及するのはやめてあげよう。嫌われたり怪しまれたりしても困る。

 「何から教えてほしい?」

 「えっと、タスクの捌き方!」

 「具体的に言うと、、、」いささか抽象的な質問だったので仕方あるまい。それに、タスク全般についてだったら俺が知りたいくらいだ。もう数百年とやってきたが未だにコツなんて呼べるものは得られていない。

 「ええっと、とりあえず死者ファイルの情報の素早い確認の仕方と処遇の基準が知りたいです!!!」

 なるほど、それはもはや仕事全部な気もするが、まあこうやって後進を育てるのは大事なことだから手は抜けない。

 「死者ファイルで大事なのは結局、罪まとめ、善行まとめ、評判・コメントの3つだから他の欄は見なくていいよ」

 「えっ、私いままで趣味や年齢、出身地とかまで見てました」

 ああ、だからこの子に試させた仕事は遅かったのだ。でも、見なくていいよは少し言い過ぎたか。

 「そういう情報は余裕があるときに読めばいいよ」

 私はこの課に異動してきて以来、時間があると思ったためしはないが。

 「はーい」

 「あと、処理基準だっけ」

 「そう」

 「えっとね、大体の場合は成仏でいいよ。で、まあその次が不成仏、自白、改悛、ハンムラビだから」

 「自白って本人の意識に過去やったことを再確認するやつですよね」

 「そうそう、もし嘘でもついたらすぐ改悛に送って」

 「改悛がいわゆる定型罰ですよね」

 「うん、釜に入れるとかいった類のやつ」

 「で、ハンムラビは目には目をとかと同じやつですよね」

 「そう。大抵この辺のレベルのやつはエグいことしてるから同じ報復は難しいこともあるけどな」

 「大体は分かりました。丁寧にありがとうございました」

 本当にできた子である。しかし、一つこの純真な子に言わなければならないことがある、と思っていると

 「もし何かあったらここでまた聞きますね!」

 「あっ、そのことなんだけど、僕はもう今日でここ辞めるから」

 「えっ、そうなんですか。残念です。でも奇遇ですね、私が交代要員で来たみたいで。実力は大違いなんですけど、頑張ります!」

 「頑張ってくれ、では」

 ちなみにこれは奇遇でもなんでもない。だって、この下界終了人間の管理は私たちの課に任されており定員は20と決まっている。だから僕は交代でお役御免となったわけ。逆に言えばだれか入ってきて一人前になったとき初めて僕はこの職を離れることができるのだ。

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