猫のつぶやき
吾輩は猫である。その通りなんだけどこの自己紹介が使いづらくなったのは、かの文豪の偉業の為せる技だろう。さてこんな前置きは置いておいて私は(日常的に使う一人称は私なんだけど、自己紹介では吾輩って使うんだよ、受けがいいから)今日も散歩に出かける。いつもは日が昇り切ってからにするのだけれど、今日はなんとなく早めの気分だ。散歩に出かけると言っても飼い主の家に居るのはご飯を食べるときと夜寒いときだけで散歩をしている時間の方が長いだろうから、散歩はお出かけというよりは帰宅かもしれないけれど。
猫というのは楽な生き物だ。楽に見えるが楽じゃないという流れが定番であるが、ここはそうじゃない。本当に気楽で呑気な生き物なのだ、猫というのは。食べ物は飼い主から与えられるしリードは付けられない。散歩に急に連れていかれるなんてことも無いし、狭い小屋に入れられることもない。一人で道を歩いていても邪険にされることもそんなに無い。小さな隙間でも通り抜けられるし、どこに行っても、どこに現れても怪しまれない。簡単に言えば好きにできるっていうのが楽という感覚を生んでいるのだろうか。
私は三毛猫だから関係はないのだけれど、迷信で黒猫が横切ると不幸が起きるというのがある。私に黒猫の知り合いはいないが、たまに通りすがりの黒猫と世間話をすると大体この迷信に対しての愚痴を聞くことになる。たしかに自分が好きで横切ったわけでもないのに、あの言われようは些か気の毒というものだろう。でもたまに、こんな迷信が広まっているのはそのミステリアスな容姿、何かを隠しているような上品な黒の毛並みが一役買っているのではないかと思うとうらやましくもなる。三毛猫はいかにも平凡という感じもするし。まあ、最大の要因は魔女のイメージだろうけれど。
そういえば黒猫に関わらず猫を上から落とすと必ず足を下にして着地するというのがある。これは実際にそうであるし私もできる。ふと脳裏におそるおそるこの実験をしてみた飼い主の顔が思い浮かんだ。申し訳なさそうな瞳に少しの好奇心が混じっていたのを私は見逃さなかった。期待にお応えして華麗な着地を決めると驚き、満面の笑みで喜び、褒めてくれた。この人がこんなにも楽しそうにしてくれるなら何回でも着地しようと思ったのが懐かしい。
いけない、いけない。私はいつもくだらないことばかり楽しそうに話している、という非常に光栄なお言葉を仲間から頂戴しているのに、ガラにもなく感傷的なことを思い浮かべてしまった。それにしても言い伝えというのは正しいものだ。
「急に猫が消えたら、いつもと違う行動パターンをしたときは追ってはいけない。猫は自分の死期を悟るのだから」
この世からお暇するときは一人、いや一匹なのである。
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