家の中の入れない部屋の話

 今日もまたドアが閉まっている。そのドアを3才年下の妹、みいと一緒に今日もまたぼーっと見ている。あのドアは我が家の部屋のドア。マンションの504号室に僕たち4人家族は住んでいる。玄関入って右と左に部屋があり廊下の途中に収納とトイレ、洗面所、お風呂がある。その先が和室とリビングとキッチン。まだ僕が小学3年生で妹は年長さんだから、子ども部屋は二人で一つ。さっき言った入って左側の部屋だ。

 ドアがいつも閉まっていて入らせてもらえないのは、というか中すら見たことがないのが、子ども部屋と反対側にある部屋だ。なんて呼んだらいいかも分からない。順当に考えれば父の書斎とやらか母の部屋。もしくは二人の部屋。今は和室で四本川よろしく寝ているから、あの部屋が二人のものだとしてもベッドがあるかどうかはわからない。唯一分かるとすればそのドアはずっと閉められたままではないということだ。

 なぜそんなことが分かるのかというと、ホコリだ。自分たちの部屋くらい自分で掃除しなさいと言われて最近掃除をさせられている。もちろん、みいは大したことができないので結局は僕が一人でやることになる。つまみ食いや盗み食いは僕よりするくせに。母の機嫌が悪いからどの失態がバレたのだろうと思っているとみいが怒こられているというパターンも増えた。

 ある日僕が自信満々にお掃除できた!と母に言ったら、うん、お部屋の中は片付いたわね。でもホコリが残ってるわよ、ほら、と姑よろしくドアノブや床をなぞった指を見せられたことがある。普段使わないところに積もるのよね、と誰に言うでもなく愚痴っている。僕が仕方なくティッシュで拭こうとすると、もったいないと言って母は使い古した雑巾を持ってきた。僕はそれを濡らしてホコリを拭いた。

 この日から僕はホコリが気になるようになった。家の色んなところにホコリを見つける度に母もまだまだだなぁと思った。面倒くさいから見つけても拭きはしなかったけど。そして僕はずっと開けてないはずの部屋のドアノブや入り口近くの床にホコリが積もっていないことに気づいた。マメなところもあるのだなと感心したが、雑巾は僕が干した時から使われていないようで干からびていた。

 じゃあホコリや掃除など関係なく、僕やみいが寝ているときにはあのドアは開いているのだろう。これが一番単純で一番可能性の高い話だ。でもよく考えるとおかしい。だって母は僕たちを寝かせてそのまま横で寝ている。もし起きたりすれば僕かみいが気づくだろう。それに父は朝が早いので晩ご飯を食べたらすぐに床に就く。

 だから試しに、夜中にトイレと言って偽り、あの部屋のドアの前まで行ってみた。これがよくなかった。最近冷蔵庫から食べ物がなくなる理由とドアノブにホコリが積もってない理由を僕は知ることができたが、分からないことはもっと増えてしまった。僕は身を委ねて考えるのをやめた。

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