沙賀という村
そういった感想はあながち間違っていない。沙賀では、その年に一番早く生まれた女の子を男の子として育て、同じようにして一番早く生まれた男の子は女の子として育てられる。そして十才を迎えた年の夏の終わりに彼らは村の東家に一晩置き去りにされる。もちろん食べ物や水は家から持たされる。他の子どもたちには彼らが選ばれたのだ、と言って聞かせる。彼らは彼らで、君たちが一番お兄ちゃん、お姉ちゃんなんだからね、と言って見送られる。特に何が行われるのか、とか、なぜ行かなければならないのかとかいったことは教えられない。行って日が昇ったら帰ってくればいいとだけ言われるのだ。
その日、二人が寝静まる前、ふと天上から声が聞こえてくる。
君たちは入れ替わってるんだよ。二人とも気付いていたかもしれないが、お嬢ちゃんは男の子で、お坊ちゃんは女の子なんだね。なんか自分は周りの子と違うなって思わなかったかい。
この役はその年、村で一番年長の者が担うことになっている。今年は97歳の老爺である。もう十数年この台詞を読んでいる。台詞をここまで読むと、確かに違うと思ってたと口に出す子もいれば黙り込んでしまう子もいる。今年は二人とも理解が早く、声の主が見えないながらも頷いている。大事なのはここからである。
ではどうするかい。二人ともがいいなら元に戻ったらいい。お互いの家に帰るんだよ。他の子どもたちもあの場所に行ったから不思議なことが起きたんだろうって思うだけだろう。それとも入れ替わらなくたっていい。このまま今まで通り過ごして大人になったっていいんだ。
この問いかけに対してなんと答えるかは分かれるところである。事実を知ってしまったからには入れ替わって本当の性別でこれからを歩みたいとはっきり言う子もいれば、このままでいい、このままがいいと言う子もいる。一番大変なのが二人の意見が合わなかった時である。大人の世界では男が女を黙らせるというのが未だに散見されるが、幼いうちは女の子の方がませているのは事実だし、沙賀ではもっと話がややこしい。男の子は女の子と一緒に育ってきたから女の子と同じような感性を持っているし、女の子の方も同じくだ。それでも数十分もすればどちらかが折れて結論が出る。
さあ、今年の二人がいまに口を開く。
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