救いの冷水機

 空想が好きだ。それも不謹慎なもの。悪趣味とは違うと自分では思ってる。例えば校長先生が死ねばいいのに。とかは思わない。小学校にも負けず劣らずの長い校長先生の話を聞いているときなら、例えば、朝礼台に穴が開けばいいのになんて思う。油断は大敵です、夏休みも遊んでばかりいないで勉強に励むように。なんて言ってる先生が落っこちるのは見ものだと思う。




 なんて夏休みの前は思っていた。いまも太陽は手加減なしで照っていて、そんな中で僕たちは体育大会の練習だ。いつも通り僕は空想をしてやり過ごしている。昨日は体育館での練習だった。やっぱり体育館だとベタなのはあの大きなライトが落ちてくるパターンか時計が落ちてくるパターン。もしくは緞帳どんちょうが落ちてくるパターン。なんだか落ちてくるの大好きだな、と我ながら呆れる。でも、ライトが落ちてきて粉々になってワックスのかかった床に散らばるのはどこかゾクゾクする。本当に起きたら大騒ぎ、大惨事まちがい無しだけど。


 でも今はグラウンド。パッと思いつくのは校旗用のポールが倒れてくることだけど地味だ。いつも通りイメージ図を書いてみたけどやっぱり地味。紙もいいけど砂に絵を描くのも楽しい。校旗が、というところにメタファー的な面白味はあるけど。何か名案はないだろうかと考えていたら、いつの間にか休憩になっていた。こんなことを考えて先生の指示もろくに聞けてないやつなんて他にいないだろうけど、こうでもして頭を動かしていないと熱中症か貧血で倒れてしまいそうだ。わぁーっと走っていく生徒のかたまり。元気がいいなぁと同級生たちに思いながら、あぁそうか、あそこには冷水機があるのか、と合点がいった。冷水機。人だかり。何かが浮かんだ気がする。そうだ、あの冷水機の水が出てくるとこに何かを、例えば、、、とここまで考えて、これは悪趣味なパターンだなと思ってやめた。立ち上がると、ちょうど先生がそろそろ集まれーと言っているのが今度はちゃんと聞こえてきた。指先の砂を払いながら、慌てて日陰に置いておいた水筒を飲みにいく。




 誤算。今日は5、6時間目も体育という名目で練習があるんだった。しかも、そのことに動揺して水筒を外に持ってこなかった。持ってきていても、どうせすぐに底をついたのだろうけど。練習の内容はダンス。学年練習になったからグラウンドの真ん中の方でみんなで仲良くフリを確認する。これだったら教室でもよくないかと思わなくもないが、そんなことを考えたら負けだ。


 やっと5限が終わった。疲れた。でも水筒は無い。それでもこの暑い中、行列に並ぶのも嫌だしと思って、少し遠い方の冷水機を使うことにした。我ながらナイスアイディアで人の姿はまばらだった。僕の前には一人しかいなかったが壊れたのか何やらごそごそとやっていた。それが毒物を塗りたくる動作だと気づいたときは遅かった。

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