夏休みの虫捕り日記

 うちの息子が通う小学校は少し変わっている。今年、小4になった息子の夏休みの宿題の一つに日記があった。絵日記ではないのか、と珍しがったのも束の間、「毎日書かなくていいんだよ」と息子が言うもんだから、ズルをするのかと訊いたら違った。合計の行数だけ決まっていて、毎日書いても、何かイベントがあった日などにまとめて書いてもいいそうだ。珍しいが非常に合理的なシステムだと思う。そっか、でも旅行の予定とかないんだけどな、とぼやくと息子は、「大丈夫、今から書いちゃうから。お昼ご飯までに終わらせる」と言って自分の部屋に颯爽と駆け込んだ。なんだ、結局ズルじゃないか、と思いながら、漢字の見直しはしたの?とその背中に言って、冷やし中華づくりに取り掛かることにした。




 黄色の麺が茹で上がったころ本当に息子は嬉々として「できた~、じゃあ、虫捕り行ってくるね。けいくんと約束してるから~」と言って、プリントの綴りを食卓に置いて走り去っていった。バタッというドアの閉まる音が数秒後にした。おいおい、麺が伸びる、と思ったが、まあ、夏休みなんてこんなもの。私もアイスコーヒーでも飲もうかしら。




『この夏休み、ぼくが一番楽しかったのは虫捕りです。たくさんのせみを捕まえました。数ひきのカブトムシを捕まえました。あと、クワガタも捕まえました。でも、どれももう虫かごの中にはいません。ずっとせまい虫かごの仲に閉じ込めておくのもかわいそうだと思ったからです。

 普通、虫はお昼に木に止まっているなんてことはありません。大体せみは朝ぼくが起きるころにはすっごいうるさいけど、お昼ご飯の時間にはあんまり鳴いていません。これはぼくの家の近くのせみだけかもしれないけど、ぼくが捕まえに行くのはぼくの家の近くのせみだから関係ないです。だから、実際に捕まえに行くのは夜仲です。そのために、お昼にわなをしかけに行きます。ぼくはわなの準備、特にエサの準備ができないのでけいくんにおうちでやって来てもらいました。それをお昼に集合して木に二人で一緒に結び付けました。

 その日の夜いっしょに見に行く約束をしました。それでその日の夜いっぱい虫さんたちを捕まえました。でも、とちゅうでけいくんとはぐれてしまいました。心配になったけど、ぼくがさがしている間にぼくも迷っちゃうのが一番いけないかなと思いました。それに先に他のわなを見に行ってるのかと思ったので、さがしに行かず、一つひとつわなを見て周りました。

 そういえば、最初の捕まえたものの中で一つ書き忘れがありました。消すのもめんどくさいのでここに書きます。それはすごい大きくて虫かごには入りませんでした。それにすごい大きな声で泣いていました。とちゅうで虫さんたちがいっぱいになりすぎて虫かごに入らなくなってしまいました。最初に書いたけど、せますぎるのもかわいそうだと思いました。それにせっかくの新しいおうちがせまかったら、がっかりするだろうと思って元のおうちに帰してあげました。その代わり僕は手が土でよごれちゃいました。ばっちかったです。それにさっきの大きくて虫かごに入らなかったのもひとりぼっちもさみしいかなと思ったので同じようにしてあげました。

 だから、いま、僕の家には虫さんは一ぴきもいません。そういえば、けいくんもいなくなっちゃったんでした。』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る