Wi-Fiルーターのヒミツの機能

 引っ越してきたからWi-Fiを新たに契約した。元々このアパートには住人専用のものが飛んでいるからルーターを手に入れるだけだった。電気屋に買いに行った。


パソコン周辺機器


のコーナーは割とあっさりと見つかった。意外に種類があるので迷ったが、まあ対して性能は変わるまい。下から2番目くらいの値段のやつをカゴに入れようとしたがその横の商品に目立つ謳い文句が書いてあった。


ちょっと高いのはの機能があるから!


 こんな抽象的な説明はどうなのだろうかと思ったが、とりあえず箱を手に取った。箱の方にも大した説明はなかった。でも、の機能とやらが本当に備わっているというのはうっすらと理解した。まあ、数百円なんて安いものか、と思ってこっちを買うことにした。引っ越しに掛かった費用と比べてしまって財布の紐が緩んでいるというのも確かにあるだろうけど、魅力的な買い物ではある。


 とまあ、そんなわけで部屋に戻って来て、早速Wi-Fiを使ってネットで電気やガスの契約を進めた。別に今のところは普通のWi-Fiだけど。騙されたのだろうか。


プルルルルル プルルルルル プルルルルル 大学の友達の桃井からの着信だ。


「はい、もしもし。」

 「で、佐藤となんかあった?」

「おう、あきら。上京したんだって?」

 「佐藤がさぁ、馴れ馴れしく話しかけてきてさぁ。」

「ああ。」

 「え、いつ?今日?」

「俺は埼玉の端の方にいるからな。時間があったら遊びに来いよ。飯でもおごるから。」

 「そー、もうサイアクー」


何かおかしい。


「埼玉か。そうか。まだ、この週末は暇だしな。ありがと。」

 「なんか、好きなアニメとか聞いてきたのー」

「あっ、あのー、桃井。いま、誰かといっしょに居る?」

 「キモ。なんて返したの?」

「え。俺は一人だけど。嫌味かぁ?まだ、独身だよ。」

 「あんまり詳しくありません。さようならって言っといた。」

「いや、そういうことじゃなくて。俺もひとりだし。」

 「さすがに、塾のセンセーからそれはきもいよね」

「桃井以外の声が聞こえるんだよ。若い女の子の声。」

 「そしたらさー、引き留めてきて」

「あきら大丈夫か。なんか変なもん食ったか。俺には何も聞こえないぞ。」

 「えっまじ?逃げよ、逃げよ」

「じゃあ、俺だけか。やばいな。別に今日はコンビニ弁当だし。特に変わったことは――。」

 「もち、逃げたよ。適当にスミバシカメラの陰に隠れた。」

「あっ。」

 「よかった逃げて。追ってこなかった?」

「昼過ぎにルーター買ってきたんだった。いま、それ使ってる。」

 「うん。塾に戻ってったみたい。」

「え、どういうことだ?」

「なんか秘密の機能ありみたいに書いてあったから、それかもしれない。」

 「じゃねー、また学校で」

「幻聴機能か?」

 「うん、バイバイー」

「多分、盗聴機能だと思う。お隣さん、ちょうどこの年くらいの娘さんがいた。」

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