宿題を後回しにするみたいに

 これを読んでるあなたへ



 これはなぜ私が死のうと思ったかを書いたものです。

 別にいじめられていたとか家族に冷たくされていたとかいうことはありません。もっと広く言えば今に不満を抱いているというわけではないのです。ただ、将来に希望が見いだせなかったのです。今に対して割と楽しいと思えているのは、今の友達がいたり、今の家族がいたりするからであって、この状況がずっと続くとは思えません。だから、ここでとりあえず、人生とやらを終わらせてみようと思いました。

 だから、学校の屋上から飛び降りました。いい感じに風を感じました。ちょうど鼻が地面に当たるかというころ、時間が止められました。いや、この言い方をすると怒られたんでした。


 地球を私が落ちる速度と同じ速度で動かした、だそうです。


 まあ、そんなこんなで私は死ねなかった訳ですが、そのときに私は思いました。そういえば、今、走馬灯を見て然るべきなのではと。だから頑張って脳内再生を試みました。でも、何も浮かんできませんでした。みなさんは現時点で走馬灯をつくるとすれば、どんなカットを持ってきますか。生まれたときですか。はじめて伝い歩きしたときですか。まだまだ大きいランドセルを背負ったときですか。小学校の修学旅行ですか。中学校の修学旅行ですか。高校の合格発表ですか。みなさんの年齢は分かりませんが大学入試ですか。大学生活ですか。バイトの日々ですか。就活ですか。入社式ですか。それとも昇進が決まった時ですか。随所に散りばめられる恋愛ですか。デートですか。結婚ですか。子どもが生まれたときですか。いつですか。きりがないけどいつですか。何が思い出深いですか。

 私は、まだ、そこまでは経験したことがないから思い浮かばなかったけど、ぱっと思い浮かんだのはなんてことないことでした。


 取っておいた冷蔵庫の中のマンゴープリン。

 まだ、クリアしてないRPG。

 夜8時からのライブ配信。

 発表が来週のライブのチケット。

 借りたままのハンカチ。


 こんなものが脳内を駆け巡って消えていきました。その残像を見ながら死にたくはないなって思いました。それは、プリンの容器を空にして、スタッフロールを見て、チャンネル登録してね~って声を聞いて、落ちた当たったと友達と騒いで、お菓子といっしょに返してから死ねばいいと思ったからでした。


 生きたいと思ったわけでも、死にたいと思ったわけでもないです。

 ただ、後で死ねばいいかって思っただけです。

 宿題を後回しにするみたいに。



 ―—いまはもういないかもしれない私より

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