一年ぶりだね
白い雲。水色の空。強い日差し。ガードレールを越える雑草にけたたましいセミ。
そのどれもが夏を楽しんでいるように見える。いまが僕たちの出番なんだ。そんな思いが聞こえてくる。
砂利道を通り抜けると開けた丘の上。太陽に少し近づいた。ペンキの剥げた古びたベンチが二つ、左右に置いてある。小さな花が地面に少しだけ咲いていて、大きな樹がまばらに日陰をつくっている。それでも、夏本番にこんなところにわざわざ来る人はいない。
そんな中、一人がアイスが2つ入ったコンビニの袋を下げてやってくる。花壇の方に歩いていく。地元住民がボランティアで植えているもののようだ。
それらには一瞥をくれるだけでてくてくと、もっと端の方へ行く。花壇の後ろ。そこには一輪のひまわり。まっすぐに育っていて大きい。しっかりと太陽の方を向いている。きれいで力強い黄色の花びら。少しちくちくする薄い緑色の茎。
ほら、陸くん、買ってきたよ ソーダ味
食べなよ 私はチョコミントにしたけど
もう私食べるからね 溶けても知らないからっ
レジでもらった木のスプーンでもくもくと青に近いエメラルドグリーンの食べ物を口に運んでいる。花壇にこしかけるその姿はリラックスしている。
ねぇ、毎回、言ってるけどさ、なんで急に遠くに行っちゃったの
せめてさ、バイバイとかさ、ありがとうとかさ言いたかったんだけど
聞いてる?
もっとここに来たいけどさ、あの後わたしもお父さんの仕事の都合で県外に引っ越しちゃってずっとそこに居るから、来れないんだよね
結局ずっと年に一回、この時期だけだよ
ひまわりが呼応して風に揺れる
あのさ、さびしいよ さびしい さびしいの でも、どうしようもないじゃん
陸くんのせいでも私のせいでもないんだもん
でもさ、さびしいよ
どうすればいいの
教えてよ
いっつも色んなこと教えてくれたじゃん
私が困ってたら助けてくれたじゃん
ねぇ
さびしいよ さびしい
色々楽しいことはあるんだよ
あのときはさ、ほんとに世界が終わっちゃうのかって思うくらい悲しかったよ
でもさ、嫌でも時間は流れるしさ、新しい友達もできて、いろんな人に会ってさ、楽しいこともいっぱいあったよ
でもさ、楽しいことがあっても悲しいことが消えるわけじゃないじゃん
時間が経ったら消えるなんてのは嘘で、見えづらくなるだけじゃん
陸くんは分かんないかもしれないけど
さびしいってのはさ、代わりのものでは埋まらないんだよ
このさびしさを埋めれるのはこれって多分決まってるんだよ
陸くん、私、さびしいよ
ザァーッ
今にも泣き出しそうなとき夕立がやってきた。
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