お日さまがやってきて

「起きてる?おはよ!」 快活でかわいらしい声。

「うん、おはよう」 ぼそっとした僕の声。おからみたいな感じだろうか。別に僕のテンションが低いのは僕が低血圧で朝に弱いからではない。

「ほら、聞いてる?そろそろだよ」 そう、今は早朝4時前。朝というか、ただの夜更かしなのだ。なんでこの人はこんなにも元気なのだろうか。




「24時に裏山に集合!」こんな留守番電話が入っていたのは僕が寝ようとしていた頃だった。中学生になってから夜更かしになったという自覚はあったのだが、それでも日をまたぐことはなかった。その調子で今日も11:30に流しそうめんのようにベッドに吸い込まれようとしていたら、ピンクグレープフルーツのような彼女の声が僕の耳を刺激してきたのだ。不思議と悪い気はしなかったが。そんなわけで僕はまだましな私服に着替え、外に出た。裏山とは名前だけで、僕と彼女の家の間にある少し小高い丘のようなところだ。風が気持ちよかった。何かを祝うようにも暗示するようにも思えた少し生温い風だった。今思えば。




 流石に来ないかな。少女はスマートフォン片手に岩の上に腰掛けている。まだ辺りは暗いけれど、道の方からは微かに街灯の光が届いている。なんて言おうかな。「夜寂しくなっちゃって」いや、それだと電話でよくない?ってなるよね。「○○日記念って知ってる?」これはいくら私でも唐突すぎるか。「一緒に日の出が見たかったんだ」これはキザすぎる。一緒に、あたりまで口に出して眩暈がしてきた。じゃあ、、、と代案を考えていると辺りが一瞬暗くなった。少女は驚き顔をぐるりと回した。そこには息切れしかかった少年がいた。


「はぁはぁはぁ」 夜だから汗はかいていないけど疲れた。

「そんな家から離れてるわけでもないのにぃ」 すぐ、からかってくるんだから。

「で、どうしたの?夜遅くに」 なるべく詰問調にならないように気を付けた。

 体を横に振って間をつなごうとする少女。

「あっ、うん。えーと」 あちゃ、結局アイデアがまとまらなかった。どうしよう。

「いいよ、別に。なんか、よく分からないけど、そういうときあるよね。僕もある」 思いもよらない返事に驚き、感謝し、惚れ直しちゃったけど、何か言わないといけない。

「あっ、うん。そんな感じ。でね」

「でね、何?僕もそっち行くよ」

 道路から離れて少女の方に近づく少年。

「お日さまが出てくるのを見たいなぁって思って」 予想外の返答。

「あー、日の出ね。まあ、お正月でもないんだけど」 正直なことを言ってしまった。

「うん、、、。そうだけど」 この声を聞いて後悔。

「なんでもない日が特別な日になるのもいいものだよね。うん」 少し歯の浮いたセリフすぎるけど。

「そゆこと!ちょっと違うけど」 よかった、けど違うってなんだろうか。まあ、いっか。




 こんな感じで僕たちの会話は続いた。不思議と眠くはならなかった。まあ、彼女はいとも当然というように話し続けていたけど。それも当然だった。今でも朝昇ってくる太陽を見ると思い出す。




「ほら、聞いてる?そろそろだよ」 彼女の楽しげな声。

「あっ、うん。」 正直、僕もぎりぎりで意識を保っていたくらいだった。相手が他の誰かだったら、とっくに寝てしまっていただろう。僕は、その声で顔を上げた。目の前に広がる太陽の光。本当にきれいだった。でも、横にいるこの人の方が――。そう思って横を見るとその姿は無かった。




 寿命5000日の一族、そんな項目が学校の図書館の禁帯出の辞典には載っている。

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