やったやったしてやった
やったやったしてやった。やっとだ。達成感に満ち溢れている。満ち溢れすぎて口から零れ出してきそうなくらいだ。気が狂ってしまいそうなほどうれしい。実際、いまやったことは気が狂っていないとできないようなことだった。俺が何をしたかって?言ったじゃないか、ちゃんと。人の話は聞くもんだよ。
殺った殺ったって言ったじゃないか。夜の道。まばらな街灯。駐車場にたむろする大学生、を刺激しないようにアイスを買って帰る高校一年生男子。そいつを俺は殴ったんだ。分かったろう。そういうことで、俺の前には俺より少し小柄な男、というか青年が倒れているじゃないか。鮮血のおまけ付きで。ああ、俺の手にもついているさ。そのおまけは。だって殴ったんだもの。正確には殴り殺したんだもの。見てみるかい。この面を。まぬけ面を。ほら顎関節が外れてる。それに目の上が腫れてるな。こんなんじゃ前も見づらいだろうな。まあ、死んでるんだけど。
女でも寝取られたんですか?って。酷い言いようだな。まあ、でも人間を一人殴って殺してるんだもんな。そういうことを考えるわな。でも、違うよ。そもそも俺には寝取られるような、というか女がいない。だから、違う。
「じゃあ、兄弟とかですか。見た目もちょっと年下っぽそうだし。義理の弟とか。こう、再婚によって生まれた弟に自分の母親がつきっきりになってしまって、おまけに義理の弟の方が何もかもできがよくて――みたいな。」
何だよ、お前ずいぶんと失礼だな。それにそんな安っぽい筋書き、ほんとにあんのか。そんなん。まあ、でもひと一人殺してるんだもんな。そういう理由というか動機はもっともらしいな。犯人が違うんだって泣きながら語ってそうではあるよな。でも、俺がそういう奴じゃねぇってのはお前がよく分かってんだろ。付き合いも長いんだし。
「はい。そうですね。どっちの動機も違和感があります。」
なんかそうも肯定されると、否定したくなるな。まあ、でもそういうことだ。俺に好き嫌いがないことくらい知ってるだろ。ましてや抹消してしまいたくなるほどの好き嫌いなんて。
「はい。人に興味が無いというか」
よく分かってんじゃねえか。その言い方だと俺がナルシストみたいで気に食わねぇが、まあ、人よりは自分だな。
「それで、この青年は誰なんですか。友達とか?」
流石に友達を殴り殺すくらい俺は非人間的じゃないぜ。こんなことしちまったら足がつくに決まってるしな。
「じゃあ、この人は――。」
お前、さっきいい線いったぞ。こいつはな、若い時の俺だ。今の俺がこんなすさんじまったのもこの年ごろにきっかけがあったんだよ。だから、もう過去から連れてきたんだよ、俺を。それで殺した。それだけさ。
「えっ、でも。」
俺も色々考えたよ。でも、もういいんだ。ムショに入れられて晴れて戻ってきたら、きっと、こう思うんだよ。俺は。
あんとき俺を殺した愚かな俺を過去から連れ出して殺してやろうってな。
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