この子は誰の子
「嫌よ、この子は私の子なの。」髪の長い女性が静かに言う。
「違うわ、私の子どもに決まってるじゃない。ほら、顔も私に似てるでしょ、ねぇ看護師さん。」こちらは少し太った背の低い女性。声も低い。
「ええと、赤ちゃんですし、山本さんと顔が似てるかどうかっていうのはあまり参考にならないかと思いますけど、、、」看護師は、まあ、確かに山本さんもこの赤ちゃんも顔も体つきも全体的に丸いですけどね、と若干毒を吐いた。心の中で。
「看護師さん、問題はそこではないでしょ。この子は私の子でしょ。そこをはっきりしてほしいのよ。」
「ええと、それはですね、当院の不手際で申し訳ないのですが、現在、担当のものが、、、」
看護師の態度が煮え切らないのにはもちろん理由があって、いわゆる取り違えが起きているのではないか、という事態に陥っているのだ。この、すこやか病院は特に産婦人科の評判がよく、たくさんの子どもがここで生を授かっている。
「だから、私の子だって言っているでしょう。」
「違うわ、私の子どもよね。いないいないばあっ。ほら笑ったぁ。どうみても私の子どもじゃない。ねぇ、看護師さん。」
「そんなことで証明になるわけないでしょ。看護師さんも何か言ってくださいよ。
「川内さんの言う通りですね。はい。」
プルルルルルルルルルル
「はい、加藤です。はい、昨日生まれた新生児の件ですね、はい。」二人も横で聞き耳を立てている。看護師は相手の言葉を復唱する。
「山本さん」 山本さんの方が、ほれ見たことかと川内さんの方を見る。
「川内さん」 今度は川内さんが山本さんを見る。二人とも看護師の次の言葉を待っている。
「以外に親だという人が受付に来ているんですね。はい。えっ?」さすがに看護師も復唱しながらことの可笑しさに気づいたようで、聞き返している。横では、二人も顔を見合わせながらも電話口に配慮して声を出さない。
「はーい、はい、失礼します。はい、はい。」電話は切れた。
「ええと、山本さん、川内さんお聞きになっ」
「お聞きしてましたっ、ねぇ川内さん。」
「はい、私も聞いておりました。」
「おかしいでしょ、そんなん。3人目とかねぇ。もし私じゃなかったら、川内さんが母親だと思うわ。ねぇ、そう思うわよね。」赤子に話しかけている。
「私も、その方ではないと思います。それよりは山本さんのお子さんだと思います。」こちらもいたって真面目である。
そこにどかどかと足音を立てながら夫婦がやってきた。
「私はデウス、こっちが妻のエクスだ。」
「はい、エクスです。はじめまして。」
三人とも状況が飲み込めない。
「まあ、この子は私たちの子どもなんだ。もう名前も決まっている。」
「えっ。」三人の声が重なる。
「信じられないようだな。では、特別にこの子を大人まで成長させよう。はっ。」
その声でベビーベッドにいた赤子はすくすくと育ちデウスとエクスを足して2で割ったような青年になった。
「ほら、よく分かるだろう。この子は私たちの子どもなんだ。」
山本も川内も看護師も目の前の青年の顔立ちを見ては何も反論ができない。
「あの、、、」川内が声を絞り出す。
「なんだ、言うてみよ。」
「お子さんのお名前は、、、」
「そうよ、気になるわ。」
「ああ、そうだな教えてよかろう。この子の名前はマキナだ。」
隣ではデウスの妻エクスが「マキナ」と書いた半紙を三人の前に掲げている。
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