おクスリ「夢うつつ」

 ついに手に入った「夢うつつ」。僕は醤油差しくらいの小瓶を丁寧に机の上に置いて横から眺めた。琥珀色の粒がぎっしりと空間を満たしている。これは平たく言えば寝てる間に見たい夢を見れる薬だ。中々に値は張ったが夢にまで見たこの効果を考えれば安いものだろう。だって好きなことを思い浮かべてこれを一錠飲んで眠りにつけば自分が願った夢が見れるというのだから。もちろん公的に認められた医薬品とかじゃないから薬局などで買ってきたわけではない。専用のブラウザをインストールしたあとにダークウェブの海に潜って、そこで購入したのだ。世の中も便利になったものだ。同じような種類の薬はいっぱいあったけど、これだけレビューが抜群によかった。それを信じ込んでボタンをクリックしたということだ。たしか一錠で一回分だったから、そろそろ水を飲んで寝るとしようか。冷蔵庫のドアを開けてミネラルウォーターのペットボトルを取り出してコップに注ぐ。ありがたいことに健康体だから自分が飲んだことのある錠剤といえば酔い止めくらいだ。だから、こういう錠剤は久しぶりだった。味は特にしないがついに夢を操れるんだという高揚感につつまれた。そういえばどんな夢を見ようか決めていなかった。割とまずい事態だと思うが、寝ないとことは始まらないので僕はベッドにダイブした。おやすみなさい。

 やっとだ。やっとこの時が来た。僕は小さな瓶を握りしめながら感慨に浸っていた。この薬の名前は「夢うつつ」。簡単に言ってしまえば自分で思い描いた夢を寝ている間に見ることのできる薬だ。まあ、中々に怪しい代物だから、普通に買ったわけではない。アングラサイトを探し回ってその中でも特別いいものを選んだつもりだ。そのせいか、かなりいいお値段ではあった。でもその価格も品質を保証しているのではないかな、と思うことにして購入を決めたのだ。なんだかもう眠くなってきた気もするし、さっさと服用することにしよう。滅多に薬なんて飲まないから少し躊躇したが一杯の天然水でくぴっと一錠飲んだ。その色はかなり魅力的であった。そんなことを思っていると自分がどんな夢を見たいかということを考え忘れていたことに気づいたが、まあベッドの中で考えようと思い、ベッドのある方に歩いて行った。

 届いた届いた。待望のおクスリ、なんて言うと違法性がまとわりつくが、別に白い粉でもカラフルな錠剤でもない。小瓶に入った半透明の錠剤を照明に透かしながら「夢うつつ」というラベルを読む。効能のところには簡潔に、思い通りの夢を見ることができます。一回一錠です、と書いてある。そう、これはそういう薬なのだ。頑張って探した甲斐があった。僕はすぐさま、コップに入れた水で錠剤を体の中に入れた。そういやまだ夢を思い浮かべてない。ベッドに入ってから僕は気づいた。

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