ほぼ毎日短編

あなたは何がしたい

大豪邸の踊り場から一階に向けて粒マスタードにする前の辛子をぶちまけたい。

はらっぱに仰向けになったあと猛スピードで右側に転がりたい。

助走をとってボンネットの上にジャンプしたい。

バットをてこの原理で折ってしまいたい。

水風船を体育館の天井に当てたい。

大量の枕の中に埋もれたい。

一口でコロネ食べたい。

月に触りたい。

死にたい。

固まっていたい。

棺桶の中で歌いたい。

おののく周りを見てみたい。

誰かに大声でまくし立てられたい。

バク転で一里先まで後ずさりしたい。

真っ赤な空を見上げてそのまま吸い込まれたい。

通り過ぎるかもめにバレて威嚇されても平然としていたい。

人がアリのように見える中で自分だけが人間なんだと過信したい。

体がはじけ飛ぶ恐怖の中で笑いつつ頭の中で走馬灯をゼロからつくりたい。

死ぬ直前になって自分の生き様も悪くなかったんだって月並みなことを言いたい。

どこかに自制心と醒めた心を持ち合わせる己に呆れながら道化師になりたい。

鏡に映る顔に嫌気が差したから叩き割るとかいう武勇伝を手に入れたい。

もはや名前と違うけど手首じゃなくて首でリストカットしたい。

伸ばした髪を振り回して歩行者天国を走り抜けたい。

自分を実験台にして本当に真綿で首を締めたい。

井戸の底を見つめたまま死の淵に落ちたい。

雨に濡れたままバレエを踊りたい。

虹のカーブを滑り下りたい。

雲を綿あめに変えたい。

太陽に乗りたい。

生きたい。

愚か者でいたい。

愛なんてと悲嘆したい。

何を言われても無視したい。

ガラスのハートを磨き上げたい。

ステンドグラスをひと欠片食べたい。

雨水を飲んででも醜い命をつなぎたい。

幾度となく蔑まれようが這い上がって見せたい。

きれいな顔を驚きと絶望で原型を留めぬほどに歪ませたい。

無防備な背中を突き落として鈍い音を聞く前に積み重なりたい。

どんな色でも自分色に染める黒色みたいなふりをして人をあざけりたい。

やっぱりこの世にろくなことなんて無いわって吐き捨てながら世の中を回したい。

今まで見下してきた人たちを見返すなんてちっぽけなことを酒で忘れたい。

過去と現在と将来で闇鍋をして不味くなった原因を突き止めたい。

喉が潰れる大声であいつの名前を叫んで後悔させてやりたい。

夢で人は生きてるんだって目を輝かせて力説したい。

どうでもいいことで脳の容量を食い尽くしたい。

なんてことないため息で窒息したい。

全てをあなたの所為にしたい。

とち狂ってしまいたい。

涙で顔を覆いたい。

会いたい。