教室に入ってくる不審者

 がらがらがらぴしゃっ


 反動で数センチ開いたままのドア。

 「おい、ガキども、動くなよ」背は少し高く黒のジャンパーを羽織った男。


 えぇ

 ざわざわざわ


 呼吸と恐怖が伝播する教室。

 「いいな、お前らはいま、俺に命を握られてんだ。分かるだろ、さすがに小6ならなぁ」右手の中で黒く光るチャカ。

 『6年1組の大山先生、至急職員室まで来てください』不慣れな校内放送。

 「何がしたいんだ。金だろ、どうせ」クラスで一、二を争う正義漢の震えた声。

 「おぉ、俺とおしゃべりしてくれるとはありがてぇな。ついでに物分かりもいいときたか。あんまり挑発しない方がいいと思うが、お前の勇気に免じてやる」どこかへらへらした声。

 「さぁ、どうしようかな。まあ、立てこもれば金はもらえるよな。お前ら、バリケードつくれ」状況と意図を飲み込んで動き出す生徒たち。


 がたがたがたがたっ


 あっという間に様相を変える教室。

 「ここは4階だから心配はいらねぇな」つられて窓を開ける生徒。

 「だから、動くなって言ってんだろ」安っぽく逆上する男。


 ばん


 天井を貫く弾丸。

 「もってねぇことしたな、相変わらず計画性がねぇや」落ち着いた自省の声。

 「ほらお前ら、一列に並べよ、面白いから」教室の真ん中に横一列に並ぶ生徒。

 「たいく座りしろ、な」みんなは言われるがまま。

 「立てっ」ふざけて教師の真似をする男。


 ざっ


 見事な条件反射。

 「集合っ」自主的な物真似の続き。

 「おいっ」弱い体幹。

 「なんてな」おどける男。タックルでよろめいたのは演技だったというわけか。

 うっ。 腹を抑える複数の生徒。

 「やっぱガキはガキだな」ぶっきらぼうな声と機敏に動く脚。

 「どうするよ残ったみなさん、こいつらはもう、つ・か・え・な・い」顔を覆っていく絶望。

 「重さだけはいっちょ前なんだな」無造作に教壇に並べられる体。

 「余計なことをするなよ。これはお前らも一緒だぞ」廊下から声を目一杯はる学年主任。

 「『も』ってことは俺にも指図してんのか、ご苦労なこった」少しだけ移された視線。

 「まあ、どうでもいいか。残った奴らはさっきみたいにまた一列に並べ」人数分の摺り足。

 「よしよし、次は何をしようか」大層ご満悦。


 だだっ


 シンクロする上履きの音。

 「なんだお前ら」教室の端から跳びかかる二つの似た顔。

 「くそっ」手首を掴む双子。

 「ナイス」前に進んだ女子の澄んだ声。

 

 うっ

 

 奪い取られる凶器。

 「さっさと玉切れにするわね」露わになる狂気。


 だんだんだんだんだん


 反動なんて感じさせない手練れの撃ち方。

 「やっぱりまだ持ってたわ、はいっ」飛び交う小銃。

 「ナイスパス」繰り返される小気味いい音。


 ぼきっ


 同時に決まる関節技。

 「気絶はお任せ」頸動脈を抑えこむ手。


 ばたっ


 人の倒れる音。

 「お前ら無事かっ」大人たちの声。


 がらがらがら


 バリケードを無理やり開ける音。

 「わりぃなこんな弱い奴を当てがっちゃって」凄味の利いた声。

 「やっぱお前は馘」気絶した教職員をわざわざ担いで教室に入ってくる男たち。

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