十個中いくつ破ったかしら
一条は第一発見者になってしまった。その名に恥じない活躍だ。発見されたのは板井だ。板井の遺体なんて言ったら怒られる。そこは、夜七時、公園の茂みの中。一条が驚いて声を出したので、洗濯物を取り込んでいた主婦の二階堂が異変に気付いて近づいてきた。
どうなさったんですか。その声を聞いた一条はしどろもどろになりながら、仕事帰り、自分がタバコを吸うためにベンチに近づいたら偶然その死体を見つけてしまったこと、自分はこの男と何の面識もないことを言った。二階堂はそれを聞き終わるや否や、で、警察は――とつぶやいた。
ああ、僕が通報しといたんで大丈夫ですよ。そういって颯爽と現れたのは大学生の三國。
ちょうどコンビニ行くとこだったんすけど、なんか二人が公園の中で話してたんで何かなと思ってたら、死体とか言ってるんで覗き込んだら、まあ、案の定。ほら、聞こえてきましたよ、パトカーの音。
どうしたんだい、パトカーなんて来て。こんなただの団地の中でなんかあったんか。そうしわがれた声で言ったのは四宮。旗振りのおじいさんとして小学生たちにも慕われている。
ああ、ええとですね、僕が仕事から――。
そこからの説明は要らないよ、まどろっこしい。なんか、この人がタバコ吸おうとしたら、これがあったんですって、四宮さん。
やはり四宮はよく知られている。二階堂が足元に視線を向けながら半ば、投げやりに状況説明をする。
御須照署のものですが、通報してくださった方は。
あっ、はい僕です。ええと、三國って言います。
ああ、私は五木で、ほらっ。
はい、私が六道です。
それで、第一発見者は三國さんということでよろしいですか。話を前に進めたがる五木。
いやっ、最初は、このサラリーマンの――。
名乗ってなかったね。一条です。今日、仕事帰りにタバコを吸おうと思っていつものベンチに来たら――。
この方の死体があった、と。
ええ、そうです。
何時くらいでしたか、一条さん。
いつも通りに仕事が終わったんで、ちょうど7時くらいだったかと思います。あそこに時計がありますけど、僕の視力じゃ、ちょっと。
はあ、なるほど。それで、この方たちは――。五木が他の3人を見渡す。
私は二階堂です。この、えーと、一条さんでしたっけ、が間抜けな声を出すもんだから、見に来たんです。だから、二番目ってことね。
それで、そうやってお二方が騒いでるところを僕が通りかかったんです。
なるほど、なるほど。
それで、刑事さんが来る、ちょっと前くらいにわしが通りかかったんだよ。名前は四宮だ。
はい、よく分かりました。今までの話、聞いてたか、百田。
あ、聞いてましたよ、けーじさん。
どうやったらパトカーの中にいて今までの話が聞こえていたかは分からないが、百田と呼ばれた男が寄って来た。
つまり、こういうことです。
自営業、36歳の八王子忠が、自分の妻と板井信勝との不倫を疑い、新薬ノックスを用いて板井を殺害。その証拠に板井の口元のひげは不自然に乱れていますし、八王子のアリバイはその時間ありません。それに八王子は任意の相手の居場所を突き止める能力ソナーの持ち主ですからこの被害者の行動を把握することなど容易です。
百田、今日もおみごとだ。どうしてそんな筋書きを思いついたんだ。
勘です。
そうか、よく分かった。六道、八王子の身柄を確保しに行け。
分かりました。
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