全国民大組閣

 僕は元、田中純で現、土田俊。兄は元、遠野研吾で現、土田論。父は元、園田猛で現、土田三朗。母は元、下元幸子で現、土田美代。別に僕の家族に特別な事情があるわけではない。お隣の佐藤さん夫妻は元、乾さんと中尾さんだし、その娘さんは元、桜木さんだ。何が起きてるのかって。今日が月曜日で、今日から第一次家族大組閣計画が始まったのだ。一か月前に僕たちには6桁のアルファベットがあてがわれた。その日のうちに、国がつくったホームページに行き自分がもらったその番号の欄に自分の名前や住所、資産、持ち物などを書き込む。その翌日、僕たちには別の6桁のアルファベットが配られた。次に前日に自分が書き込んだホームページにもう一度行って、次は2回目に配られた番号の欄を見る。そして一週間後にはその住所に移って、その人として生活しろという政策だ。さすがに、同じ年齢、戸籍上の性の人と入れ替わるという原則は設けられている。もちろん、従わなかったら罰則もある。まあ、金を払うとしても二人目の自分として払うのだし、拘置所に入ったとしても出てきたときは二人目の自分だ。

 なぜ、こんな政策が実施されたか。それにはいろんな理由があった。分かりやすい所で言えば、家庭内暴力などの問題を解決するため。家庭内で起きる殺人事件などの重大事件が頻発してきたから。というか、ことは家族に限らない。だって、全員を入れ替えてしまうのだから。まあ、偶然入れ替わらない人もいるかもしれないが。職場とか学校とか、どんな場面においても人間関係はリセットされる。別に元の記憶までなくなるわけじゃないから不思議とはいえるかもしれない。なんせ、この法案が通ったのも一番大きな理由は、なんか起きないかな、人生つまらないな、人生やり直したい、そんな声が圧倒的に多かったからだ。それを掬い上げた法案が国会で審議され、最終的に国民投票までこぎつけた。ふたを開けてみれば9割が賛成にいれ可決となった。反対票を入れた人は既得権益者だ、などと言われている。彼らは票を買収したが、どのみち入れ替わりが起きてしまえば、もらった金など関係ないということで、買収は成功しなかったようだと報道されていた。

 今日までの一週間で人々の移動はほぼ100%完了したと政府が発表していた。多額の補助金を出した甲斐があったらしい。そして、この政府も終わり。次からは名前だけ同じで中身は違う人が執り行う。全ては大混乱するだろう。政治のことなど全く分からない人が総理大臣になったり、車の運転ができない人がタクシー運転手になったり、そこら辺の主婦が外科医になったりするだろう。ジャグリングなどできない人が大道芸人となり、ジャグリングしかできない人は消防士になっているかもしれない。海外からは様々な声が上がっていたが、結局は内政には干渉しないということでなんの影響もなかった。

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