王子を眺める

 私は只野かな。高校2年生。中だるみの学年とも言われるけど、一年間で学校にも慣れてきたし受験生でもないから、個人的には中々いい時期だと思ってる。それに、仲の良い友達も数人できた。さらに、席替えの結果、毎日、王子の顔が見れる。この王子というのは王子おうじせんくんのことだ。王子が苗字なのだ。本当に名に恥じない王子っぷりだ。高身長、色白イケメン、勉強もできる。それでいて、いつも輪の中心にいるような人望。満点というほかない。この彼の顔が拝めるのだから授業中に居眠りすることもなくなった。恥ずかしい姿を見せたくないというのもあるし。


 まあ、こんなことを考えながらお弁当を食べている。いつもなら、仲良し女子3人で食べるのだが、今日は一人は委員の仕事、もう一人は彼氏と一緒に食べるらしい。だから一人。ちなみに王子はいつも教室の前の方に集まって男子5人くらいで食べている。やっぱり、男子っていうのは概して食べるのがはやいみたいで、私がまだ半分も食べ終わらないうちに、私の倍はあるであろうお弁当を彼らは平らげる。でも、王子はあの中では食べるのが遅い方らしく、大体、待てよーなんて言っている。彼らは食べ終わるとすぐにグラウンドに行ってサッカーか何かを始めるからだ。私も暇なときは、彼らの、というか王子の雄姿を眺めている。


 はえーよ、だから。


 今日もいつもと同じく。空のお弁当箱を置きに王子がこっちにやってきた。小走りさえかっこいい。毎日、自分のところに来たと幸せな勘違いをするのだが、そんなわけもなく、彼は自分の机に一直線。キレイな腕を伸ばしている。横の私のことは気にも留めない。


ドンッ ト


 ん? どうやら、王子が私の机にぶつかったらしい。それで、私のシャーペンが落ちたみたいだ。私は拾おうとするけど、手が届かない。王子もいるし、足で取るのもはばかられる。そう思うのと同時くらいに


 ごめん、只野さん。はいっ。

 しゃがみこむと意外にも小さくなった王子が上目遣いでこっちを見ている。


 そう謝ったあとに、彼はにこやかに語りかけて、私のシャーペンを私のてのひらに乗せてくれた。自分の名前を呼んでくれたことに意識を奪われすぎて、ありがとうを言うのを忘れていたら、立ち上がった王子が最後にこっちを向いた。


 俺も、りす、好きだよ。


 え、うん。かわいいよね。私の咄嗟の返答が聞こえていたかどうかは分からないけど、王子は颯爽と廊下に消えていった。私はシャーペンにプリントされた、りすと見つめ合っていた。りすの顔も赤らんでいる気がした。

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