話し相手

 ねーねー、つまんない。なんか、しゃべってよ。

 分かった。どんな話がいいの?

 えーっとねぇ、ちょっと怖い話。

 オッケー、ちょっと怖い話ね。あのね、男の人が一人で山の中で暮らしていたんだって。

 うんうん。何歳くらい?おじいさん?

 仙人みたいに見えたらしいんだけど、実際は30手前っていう話だったんだって。それで、山の中には誰も来ない。たまに動物が来るくらいだけど、来てもいたちとかそれくらい。あとはすずめとか。食べ物はたまにコンビニでおにぎりとかをまとめ買いしてたんだって。別に働いてるわけじゃなくて、昔から貯めたお金を切り崩して使っているらしい。

 へぇー。昔は働いてたんだね、じゃあ。

 そうだったのかな。よく分かんないけど、まあ、だから生きてはいけていたらしい。大きな木が集まっているところに移動すれば雨も避けれるし。それで、朝遅く起きて太陽を見ながらおにぎりを一つ食べて、雲が動いていくのを眺めてまぶしくなったらやめて、地面に生えてる花とか草とかが風に揺れるのを見る。それに飽きたら、また空を見るみたいな感じで過ごしていたらしい。気が向いたら昼ごはんを食べてお昼寝。次に起きたら川の様子を見に行ったりして、日が沈むころになったらそれをじーっと見る。晩ご飯を食べたら、何をするでもなく寝転ぶ。そのまま寝てしまう日もあれば、星がきれいに見えるくらいの時まで目がさえてる日もあるらしい。

 のんびりした暮らしだね。いわゆる都会の喧騒、とかとは無縁だね。

 そうだねぇ。でも、いいことばかりじゃなかったらしい。たまに、すっごく人としゃべりたくなるらしい。

 あー、確かにそうかもね。コンビニの人とは話すんじゃない?

 それでも、おにぎりは温めないから、レジ袋いらないです。だけじゃん。だから、寂しいなって思うときもあるらしい。

 なるほど。だれかとしゃべればいいじゃん。街の方に行って。それとか、知り合いとか友達に会う、とか。

 それができればいいんだろうけど、そうもいかなかった。もう、昔、仲のよかった人たちは散らばってしまったし、自分みたいな生活をしている人には誰も寄り付かないだろうって考えてたらしい。

 言われればそうかぁ。30歳くらいならみんな働いてるだろうし、結婚したって人もいるだろうし。でも、寂しいのは変わんなくない?っていうか、より寂しくならない?そんな状況だと。周りと比べるからいけないっていう気もするけどなぁ。でも比べちゃうか。

 やっぱり比べてしまうらしい。それでも、寂しいのは寂しい。せめても、話し相手くらいは、ってその男は考えたらしい。

 なるほど、話し相手、、、いい人、見つかったのかな?

 見つかってはないらしい。

 そうなの?

 だから、きみをつくったんだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る