彼は太陽が苦手なんじゃない

 彼は人の血を吸わないと生きていけない真っ白な身体の怪物だ。いつも、人目を気にしつつ夜に彼は外を歩く人を襲って血を飲んだ。彼は日の出ているときは館に居るしかなかった。別に太陽が苦手なわけでもないが、外に出ても白昼堂々、血を吸うわけにはいかないし、彼の身体は目立ってしまう。だから、夜になるまでは館で一人でぼーっとしていることが多かった。別にお金が要るわけでもないし、食べ物に困っているわけでもなかった。館に置いてあった書物を読むことも多かった。歴史について書いてある本。異国について書いてある本。宇宙の不思議が説明されている本。いろんな本を彼は読み漁った。読書の合間に屋根裏部屋から空を見上げるなんてことも珍しくなかった。燦々と輝く太陽を見つめながら恨めしいけど、どこかうらやましいと感じていた。みんなにお天道様が見ているよ、と言われ人々に堂々と認められている存在。みんなを照らしキラキラと輝かせる存在。あんなのになりたいと思っていた。


 ある日、彼は自分に羽があることを思い出した。別にいつもは使う必要がないので忘れていたのだ。もしかしたら、空を飛んで行ったら太陽の近くまで行けるかもしれない。若い頃の彼はそう考えた。今は夏だし、太陽が近くなっているはずだとも考えた。自分が暇つぶしに読んでいた本の知識が役に立ったことがうれしかった。館に近い町で10人続けて毎日、人が消え、血を吸われて見つかったのはこの日からだった。


 そして彼は空を目指した。中々地上に戻ってこれないだろうからと考えて、血は目一杯吸ってきたが足りないかもしれない。でも力尽きても別によかった。太陽に間近で会えればそれでよかった。完全に彼はお熱だった。彼は一心に太陽に向かって飛んで行った。まったく羽に問題はなかった。当たり前だがすごい暑かった。でも、彼の肌は真っ白で日光をそれほど集めなかった。


 このとき、太陽には彼が来るのが見えていた。屋根裏部屋から自分のことをずっと思い続けてくれていた人が来てくれるのを楽しみにしていた。段々と彼は太陽に着実に近づいていた。


 照れ隠しにいつもより太陽は輝いている。彼はお構いなしに近づいていく。彼の目は光を受けて輝いていた。太陽も本当にうれしかった。

 そして、二人は欲張りすぎた。彼は太陽の光を熱をあまりに近くで受けてしまった。体は真っ黒になった。彼は意識を失いつつあった。太陽が言った。ごめんなさい。そんなつもりはなかったの。彼もまた言った。ごめん、僕が近づきすぎたんだ。謝らないで。彼は太陽に申し訳なかった。自分のせいで、という思いに駆られた。

 地上に打ち付けられた彼は館に戻って館じゅうのカーテンを閉めた。太陽を見るのが辛かった。悲しそうに謝ったあの声が忘れられなかった。謝らせてしまった自分が嫌だった。

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