瓶の中身
ピンポーン 山口誠二様、お届け物でーす
のぞき窓から見ると宅配便の男の人が小さな段ボールを持っていた。サインして受け取る。大学生の一人暮らしで荷物が送られてくるなんて珍しい。と思ったら、送り主も書いていない。ますます怪しい。中を開けるとや液体に満たされた瓶がや過剰包装気味に一つ入っていた。ポン酢ぐらいの大きさだ。瓶の口はそれより大きいが。液体は少し濁っている。説明書らしきものが同封されていた。
■育て方
あなたの横に置いておくことが望ましいです。一緒に持ち運べるならそうしましょう。瓶が割れない程度の衝撃は問題ありません。大切に育てることが何よりです。目をかけてやってください。
これだけだ。よく分からないが特別な注意事項は無いようだ。育て方という言葉の意味を考えていると、液体に何か小指の先ほどの小さな塊が浮いていることに気づいた。これを育てろということなのだろうか。とりあえず今日はもうずっと家にいるし、パソコンの横にでも置いておくことにする。
パソコンでレポートを書きながらスマホが気になる。ちらっと画面を見るとその横に瓶を置いていることを思い出した。こちらの様子もうかがう。さっきは気づかなかったがよく見ると、小さな塊は何かが小さく丸まっているみたいだ。だけど目を凝らしてもそれ以上の情報は得られない。
塊に「小さな」という修飾はもう必要なくなった。ちょうどキャラメルの箱ぐらいの大きさになった。瓶の中で存在感を放っている。一週間くらいが経った。かなり速いスピードで育っている気がする。そして、薄々気づいてはいたのだが、これは何かの子どもではないだろうか。しかも、かなり人に近い何か。サルとかなのかもしれない。事実が知りたいが送り主も分からないし、病院に持っていくのも何か違うし、第一、ちゃんとした説明ができない。だからといって気軽に写真なんてとってネットにでもあげようものなら一大事だろう。でも、この不可思議なできごとを共有できるほど親しい友人もいない。仕方なく一人で育て続けることにした。
そろそろ、やばい。瓶の口とほぼ同じ大きさまで成長した。中の塊——もうそんな呼び方は憚られる―—中の子が自発的にこの硬い瓶を割って出てこれるとも思えない。じゃあ割るしかないのか、俺が。ハンマーか何かあったっけ、と思っていると、すっかり手足の区別がついた子が動き出した。お前には何もできないよ、ちょっと待ってな、と思っていると上手にこの子は頭を瓶の口に中から押し当てた。そうすると、液体が徐々にゼリー状になっていった。同時にふたが取れた、瓶には一本の線が浮かんで、全体が縦に二つに割れた。この子はプルプルのゼリーが広がった簡易ベッドで楽しそうに俺を見ている。何気なくふたを裏返した。
■この子は 山口誠三 です。
はじめのうちは瓶に入っていたゼリーが食事代わりとして食べます。これを食べ終えたら頃には大きくなっていると思いますので、あなたと同じ食事を与えてください。
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