僕はエメラルドグリーンでいっぱい

 僕の家はエメラルドグリーン。とは言っても、アパートの一室だから外壁や屋根までエメラルドグリーンとはいかない。机はエメラルドグリーン。ノートの表紙もエメラルドグリーン。さすがに中のページは白。スマホケースはエメラルドグリーン。ロック画面は暗いエメラルドグリーン、ホーム画面は明るいエメラルドグリーン。いま座っている椅子は背もたれがエメラルドグリーン。家の壁紙は勝手に変えれないから、そのままクリーム色。マグカップはエメラルドグリーン。お箸もエメラルドグリーン。フォークとスプーンは持ち手がエメラルドグリーン。バスタオルもエメラルドグリーン。お気に入りのパーカーはエメラルドグリーン。シャツも白以外全部エメラルドグリーン。ジャケットもエメラルドグリーン。カラージーンズはもちろんエメラルドグリーン。パソコンにはエメラルドグリーンのステッカー。ボールペンもシャーペンもエメラルドグリーン。手帳のカバーもエメラルドグリーン。カーテンもエメラルドグリーン。髪色も最近エメラルドグリーンにした。

 なんでも、エメラルドグリーンのものがあると買ってしまう。こんな生活を送っていると、エメラルドグリーン好きなの?って聞かれる。だから僕は、好きな人の好きな色なんです、と答える。じゃあ、二人でお揃いなんだ、って言葉を重ねてくる人がたまにいる。このときに僕は答えにつまる。だってお揃いかどうかは分からない。結局、そうだといいですね、とかいうよく分からない返事をしてしまい、相手はせっかく話しかけたのにという顔をして去っていく。

 僕がエメラルドグリーンばかりの生活を送っているのには理由がある。一つ目はいつでも思い出せるから。それで幸せな気分になるときも辛い気持ちになるときもあるのだけれど。二つ目はもしかしたらエメラルドグリーンが私も好きなの、って話しかけてもらえるかもしれないからだ。それでも中々、エメラルドグリーンが好きっていう人には出会わない。そんなある日、ある人に話しかけられた。

「靴はエメラルドグリーンじゃないんですね。」驚いた。今まで話したことのない人のはずだ。それなのに、エメラルドグリーン好きなんですねなんていう月並みな会話を飛び越えて、急にここまでやってきた。僕は話す準備ができていた。

「はい、僕は黒が好きなので。」と返すと

「それだけ?」 またもや驚かされた。

「僕の好きな人はエメラルドグリーンが好きで、エメラルドグリーンの靴が似合うんです。エメラルドグリーンの靴はあの人のものなんです。僕の中では。」

「なるほどね。」僕はそのゆったりとした反応に違和感を覚えた。あわてて相手の靴を見るが青が基調の運動靴だった。

「ああ、私じゃないよ。私の友達にエメラルドグリーンの靴をいっつも履いてる子がいるからさ。一緒に来る?」

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