ぱんじー
職員室の机の一つの上にパンジーの花が、これでもかというばかりに折り重なっていた。一輪一輪なんて区別がつくはずもなく、ただの数色のモザイク模様である。下には文具や書類、教科書などが埋もれているはずだが、少しも顔を出していない。その机に向かってきたのは、まだまだ新米の部類に入る小学校教師で2年3組の担任である斉藤美由。パンジーを育てているのは2年生だ。いつも、教頭先生の次か、その次くらいに毎朝学校に来ている。彼女は机の上の惨事を一目見て驚いた。いったい誰がこんなことを。
みんなでお花を育てることにします。校門の横の花壇とか、校庭の周りの花壇とか、プランターとかに植えます。プランターってのはこの茶色い箱のことですね。せいかつのお勉強にもなるし、学校のみんながよろこんでくれますからね。みんなはお花好きですか?
「はーい!」 一気に教室が騒がしくなる。
先生もお花は大好きです。みんなで大切に育てましょうね。じゃあ、明日は軍手を持ってきてくださいね。
「はーい!」
という話を、斉藤がしたのがちょうど9月の中旬だった。そして、12月の中旬の今、そろそろパンジーが一斉に咲きそうだったのだ。結局、彼女は学年の先生とも相談して全学年の生徒にこういったいたずらをした生徒がいないかを聞くことにした。その旨は職員朝礼で全教員に伝えられ、担任は自分のクラスで朝の会でそれを聞くことになった。斉藤先生の机の上に積んであった、というのは伏せることとなった。
斉藤が入る前から教室はいつもとは違うざわめきに包まれていた。もちろん、生徒たちも自分たちが育てていたパンジーが根こそぎ、全部なくなっていたのを見たのだろう。斉藤はきわめていつも通りになるように、ドアを開ける。
みんな、おはようございます。
おはよーございます。
今日は、まず、みんなに聞きたいことが――
ぱんじーでしょ、せんせー。なんでなくなっちゃったの?
そうですね、パンジーのことでお話があります。みんなで育ててそろそろ咲くところだったパンジーのお花がだれかに取られちゃいました。みんなの中にはそんなことをするお友達はいないと思うのだけれど、今から、顔を―—
お花はどこにいっちゃったの? 女子生徒が聞く。
ええと、それはね、先生も分かんないの。 よりざわめきが強くなる。打ち合せ通りにするしかない。
みゆせんせーほんとにわかんないの? そう言ったのはよく水やりを毎朝してくれていた男子生徒だった。
みゆせんせーの机に置いたのに?みゆせんせーの机って入口のすぐ横でしょ?じゃあ、あってるもん。みゆせんせーの机に置いたもん。置いてあったでしょ?
教室は一斉に静まり返る。斉藤は我に返る。
里田くんがパンジーを摘んだの?
うん、みゆせんせーぱんじー見たんでしょ?
そうです。パンジーは先生の机に置いてありました。なんで、里田くんはそんなことしたの?
だって、みゆせんせー、お花大好きなんでしょ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます