粛清の王と罪びと
成りあがりの王、ロド王はその厳正なる処罰で有名だ。なんて言ったって、自ら剣で首を刎ねる。処刑の時間があって、ひたすら罪状に耳を傾け、罪人から話を聞く。彼は元々、ただの農民の息子だった。少年と呼ばれ始めた年のとき、母親が王の慰みとして連れていかれた。父が力ずくでやめさせようとしたが、それを母が止めた。結局、父は城まで乗り込み、殺された。母親も不快だと言ってすぐに殺された。ロドはふさぎ込んだが、ある日、急に家を飛び出し役人に王は罪を犯したと叫んだ。当然受け入れられなかった。彼はそのまま、役人を蹴散らし、門番を殴り、酒池肉林の王を殺した。初めて見る血に驚く彼を、王の家臣や富豪たちは褒め称えた。きみは正しい、素晴らしい、そんな声を浴びせられた。いつの間にか王となった彼の前には罪人たちが連れてこられた。彼は法典に則って、罪に応じて処罰を命じた。もう、人を殺すのは嫌だったが周りの大人たちがそれを許さなかった。処刑に失敗して彼に咎められるのを恐れたのだろう。
一度、罪人が自分より悪い奴がいますと言ったのを聞き入れたのが間違いだった。民衆は人を貶めるために人を告発するようになった。次の日から罪人名簿は巻物になった。
かがり火も消えかかるころ、今日の最後の罪びとが連れてこられた。罪状を読み上げる声。女の名はサリーシャ、夫のいない間に町の男とまぐわっていた。その間、幼い自分の子を放っており、結局、泣くのをやめない子どもを壁に投げつけた。結果、泣き声はやんだ。男の名はブラハム、妻に買い物に行かせている間、酒の入った器を割った自分の子を殴って死に至らせた。以上です。どちらも、目撃情報があり、問いただしたところサリーシャもブラハムも自分の行いだと認めました。
おかしいであろう。子どもの命は一つだ。ロドの声が響く。二人とも処罰するなどという馬鹿な話はない。それに、ちょうどこの剣ももう血でさび付いてしまった。自分が殺めた王よりもすでに年老いていたロドがしわがれた声で言う。私のこの役目もお前たちで終わりだ。もう一度、聞く。
サリーシャ、お前は子どもを投げつけ、殺したのか。
はい。私が殺しました。 わかった。
ブラハム、お前は子どもを殴り、殺したのか。
はい。私が殺しました。 わかった。
では、お前たちのどちらが嘘をついていることは確かだ。相手のことをかばうのは分かる。問い方を変えよう。今からでも、お前たちが嘘をついているかどうかは調べることができる。嘘をついてかばった場合、相手は子どもを殺した罪に加え、人に嘘をつかせた罪までを背負い、より苦しい罰へと処される。嘘をつくことは相手のためにはならないのだ。よいか。お前たち二人が死ぬことはあり得ない。先ほども言ったが、私はこの剣が使い物にならなくなるまで、この任務を全うしそれが終わればこの職を辞すと決めている。では、もう一度問おう。
サリーシャ、お前は子どもを投げつけ、殺したのか。
いいえ。私は殺していません。 わかった。
ブラハム、お前は子どもを殴り、殺したのか。
いいえ。私は殺していません。 わかった。
よく分かった。血を見るのは気分の良いものではないぞ。目をつぶれ。目の前の二人にロドはそう言ったあと、後ろを振り返り罪状を読んだ見届け人にお前も目を閉じろ、今までご苦労だった。と声を掛けた。
いいな、夜も遅い。私の剣の音がしたら、目を開けて家に帰れ。では、刑を執行する。
静寂を破ったのは力なく落ちた剣の音だった。
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