あなたは私の黒の絵の具でした

 あなたは私の黒の絵の具でした。


 こう言って、1学期の終業式の日の放課後、〇〇高校2-1の女子生徒Aは4階の教室の窓から飛び降りた。コンクリートは赤に染まった。こう言われたの同じクラスの男子生徒B。


 後日、警察がクラスメイトに聞き取り調査を行ったところ、Aがクラスメイトにいじめられていたことが発覚。彼女の教科書や私物、机などはすべて絵の具で黒塗りにされていた。また、クラスメイトだけでなく、教員からもBは一人で早朝や放課後遅くに教室にいて何やら作業をしていた、との証言があった。それも、数人からではない。Bは美術部所属であったということもあり疑われた。

 そして、指紋などの物的証拠があり、何より、B自身が上記の行為を認めた。この後、高校と警察によって事態の収束が図られた。BはAの自宅を訪れ、謝罪することになった。高校側はAの家族、遺族に対し高校側が謝罪の場を準備するとも言ったが、丁重に断られた。


 数日後、Bは学校帰りに教えられた住所に向かった。Aの母親と思われる女性が招き入れた。身構え、謝ろうとするBに対し、母親は優しい顔でリビングまで案内した。そんなに、かたくならないでね、Bくん。Aにもう会えないのは悲しくて仕方ないけど、きみは悪くないの。分かってるでしょ。Aがああいう風に言ったから、きみは自分が悪いと思われていると考えているでしょうし、ほかの子もそう言ったから仕方ないと思っているでしょう。でも、大丈夫よ。昔からAは伝えるのは苦手だったけど、読み取るのは得意だったの。ほら、これ。


 お母さん、お父さんへ

 わたしは2-1になってクラスメイトにいじめられました

 教科書やノートは落書き、というか嫌がらせの書き込みでいっぱい

 はじめは買いなおしていたけど、途中であきらめました

 わたしのつくえ、いす、ロッカー、は全部落書きまみれ

 彫刻刀の傷なんてのも当たり前でした

 それでも、わたしに先生やお母さん・お父さんに言う力は残っていませんでした

 なにより、言っても無駄だと思いました

 それなら学校に行かなければいいだけでした

 そんなある日、自分の席は真っ黒になっていました

 教科書やノートが散らばっているのはいっしょだったけど全部真っ黒でした

 なにが書かれていたかなんかわかりませんでした

 中のページまで全部 机のきずも判別できませんでした

 次の日も その次の日も ずっといっしょでした

 落書きも傷も増えていたのかもしれないけど、わかりませんでした

 うわさが広まり始めました

 AへのいじめはBが行っているらしい、と。Bは美術部だし、あり得る話だ、と。

 わたしはそれを聞いて、そうなんだ、と思いました。

 美術の先生がBは夏休みで作品の仕上げる、と言っていたのを思い出しました。

 Bくんの夏休みを邪魔するわけにはいきません。

 だから、このタイミングで自殺しました。

 お母さん、お父さん、ごめんなさい。今までありがとう。

 Bくん、今までありがとう。もし、わたしが、みんなの前で「みんな知っているかもしれないけど、Bくんはいじめられていたわたしを助けてくれたんだ」って上手に言えなかったら、この手紙を使って反論してください。お願いします。

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