喫茶店で彼と待ち合わせ

 一週間前に彼氏と別れた。きっかけは、なんだったろうか、たしか、大したことではなかったと思う。LINEをさかのぼればわかるだろうけど、ほんとにちっぽけなことでがっかりしそうだから、やめておく。それでも、今までの思いとかがあふれてきたのは覚えてる。彼氏の方も、私に100%満足してたわけじゃないから言い合いはヒートアップした。私も彼も仕事がちょっと忙しくて余裕がなかったから、歩み寄るなんていうことはできなかった。お互いに、あっちから謝ってくれるはずだ、なんて思っていた。気づいたときには遅かった。もう、涙を流して彼の部屋の扉を閉めることしかできなかった。


 次の日、私は呆然としながら着替えて出社した。そして、連日の忙しさが一段落したのが今日、というわけだ。今、こうやってぼーっとしながら、こういう時はとりとめもないLINEの文面を考えて送ってたなぁ、なんて考えていた。彼が心の中にいる生活が当たり前になってすこし経ったくらいのできごとだった。コンビニ弁当のゴミを机の端においやって、安い缶ビールを開ける。いつの間にか彼に影響されてか、甘いチューハイは飲まなくなっていた。せいぜい飲んでもグレープフルーツだ。

 流し見していたテレビがコマーシャルに移って、ビールの缶も軽くなったころ、これでいいのだろうか、という考えが思い浮かんだ。職場恋愛も今回の件でしづらくなった気もする。というか、社内ですぐにお付き合いを始めるなんてどうかと思うし、そんな関係になりたいと思う人もいない。こういうとき、世の中の人は合コンとかに出るのだろうか。マッチングアプリとかいうのを使うのだろうか。いつもなら、そんなものは信用しないが、星の数だけ男はいるなんて言葉もあるし、よさげなものを検索結果から、タップした。前置きは飛ばした。

 その場の勢いで色々と書き込んだ。何をどこまでどう書くのか、とか、このあとどうなるものなのか、とかよくわからなかったけど、これで、彼の記憶が薄まるならと思って酔った頭でがんばった。


 数日して、なにやら連絡らしきコメントがついていた。その人のプロフィールを見ると、確かに割と話が合いそうだった。始めたのも最近みたいだから、こういうアプリで女をあさってる常習犯、ちょっと言い方が悪いか、っていう感じでもなさそう。もし会えるのなら、と書いてあったカフェも数駅先のところだし、行ってみたいと思っていたところだった。あまり、がっつくのもどうかと思ってすぐに返事はしなかったが、途中でそんながらでもないと思って、素直に返信した。


 休日。待ち合わせはおやつ前だけど、ちゃんとまあまあ早く起きた。少しそわそわしながら、朝ごはんを摂って、音楽を聴いて占いなんてチェックして、持ち帰った仕事に手を付けたらあっという間に昼ご飯だった。そして私は家を出た。電車に乗った。こんな気持ちの外出は久しぶりだと思った。


 カフェに入った。


 彼が一人で待っていた。


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