前のエピソード――まいにち、おしゃべり

　みつると茉由は明日、17時、空港で待ち合わせをしている。スタバで集合らしい。電話やテレビ電話は初めの方で終わりになった。文字で打つのが楽だ、という流れだ。しかし、二人ともたまには電話しようなんてことも、テレビ通話にしようなんてことも言い出さなかった。

　みつるくん、どんなんになったんだろう。かっこいい大人になってるんだろう。服装もドイツ風だろうか。見た目はもちろんだろうけど、中身は変わったんだろうな。ドイツっぽくなってるんだろうか。よくわからないけど。ちょっと優柔不断なところがあったけど、なくなったかな。やり取りをしてても、変わった気がする。なんていうんだろうか、さっぱりしたというか、洗練されたっていうか。

　茉由はかつてのままだろうか。あんまり、変わってない気がする。話し方とか、ものの考え方とか。価値観とか。就職もしたし、一人暮らしにもなった。だから、環境も変わった。それでも、茉由は変わってないんだと思う。だからこそ、会話しつづけられたんだろうか。茉由は変わっていない。

　みつるくんが変わったんだろうって思うのは、私がこの5年間で変わったからだ。はたらくようになったら、当たり前だけど、色々変わる。生活も。考え方だって変わる。いつまでも短大生気分じゃいられない。甘いことばっかりいってられない。私の根幹は変わっていないのかもしれない。それでも、多くの部分は変わった。友達からもそう言われる。

　茉由は変わっていないと思うのには理由がある。僕はそんなに変わらなかった。5年も、しかも、海外、ドイツにいたのだけれど。結局、人なんて変わらない。そう感じた。

　でも、みつるくんは私が変わっていないと信じているのかもしれない。なんか、そんな感じがする。昔の私に話しかけてる気がする。私も、昔のみつるくんしか知らないから、昔の自分を呼び覚ましていた部分もあった。でも、それも、書き言葉だったからこそ保てた。こんな感じだったっけ、と演出しやすかった。

　茉由は僕に変わっててほしいんだと思う。そういう発言が多い。日本とドイツは違うもんね、みたいなことをよく言ってる気がする。だから、ドイツのことを僕はよくしゃべった。写真を見せたり、URLを飛ばしたり。こんな人がいる。こんな店がある。こんな考え方がある。どれも客観的な話をしているだけだったが、ドイツに染まったと思っているのだろう。