返事のない手紙

 いかがお過ごしですか。春も終わりかけだというのに、こちらは少し肌寒いです。それでも、元気にやっています。力に満ちているとまではいかなくても、あなたに手紙をしたためるくらいの余裕はあるそうです。こんな言い方は失礼かもしれませんね。いつも、あなたのことは頭にあるのですが、それでも筆をとるというのはやはり少し億劫なものです。

 さて、前置きはこれくらいにして、近況報告でもしようと思います。慣れない土地での新生活、といっても結局は一人で家でパソコンに向かうというのは変わりませんから心底つかれ切って参ってしまうという感じではありません。朝は目覚めた時間に起きて、それで事足りるといった感じでしょうか。朝に弱い私にはありがたいことです。生活リズムは乱れていませんか。夜更かしはいけませんよ。まあ、まじめなあなたのことですから、心配は無用でしょう。紙の無駄ですね。

 ごはんはきちんと食べていますか。三食すべて一汁三菜を守るとまではいかなくても、人に見せられるような食事を摂っていますか。時間のあるときにでも写真を送ってください。私は、毎日、青じそを一枚摘んで何かに使っています。昨日はパスタに混ぜました。今日はサーモンのさくを買ってきて付け合わせにでもしようかな、と考えています。

 そういえば、先ほど、朝の話はしましたが夜はちゃんと眠れていますか。夜中に頻繁に目が覚めるようなら、身体はストレスを感じているのかもしれません。せめて、休日だけはのんびりとして、心も体も癒してください。猫の動画、最近は見ていますか。こっちはその辺を猫が歩いてるなんてことは日常茶飯事です。都会一等地ぐらしのあなたからすれば、うらやましいかもしれませんね。猫を見ると、なにか声をかけたくなるのですが、そのときに自分の口から無意識に出てくる言葉が「きみも一人なんだね」だったときは本当に驚きました。あなたとの二人暮らしをやめるというのは、やはり大変な出来事だったのでしょうか。あなたは、広くて見晴らしのよい、あの部屋を一人で満喫していますか。少しでも寂しいなんて思ってくれているなら、少しうれしい気もします。

 コーヒーを入れてくれる人がいなくなったくらいの認識ですかね、それとも。コーヒーメーカーをすぐに買っていそうですね。あなたなら。そういうところは変にドライですから。

 そろそろ、あなたからお返事が欲しい頃合いでもあります。あなたにそんなことは望めないというのはよく知っていますが。私が。

 では、私がそちらに行くまで待っていてくださいね。そちらの世界は本当に黄色いのですか。泉はあるのですか。

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