有機的な部屋

 起きると、真っ白な無機質な立方体の部屋に閉じ込められていた。

 なんていうことだったら、僕もなんとかできたかもしれない。それだったら、僕は何回かそういう設定を、そういう話を読んだことがあるから。


 でも、ここは違う。起きると、緑の生い茂ったどちらかというと、有機的な部屋だった。立方体ではあるが。まず、僕は真ん中に座っているのだが、それは、角が全部占有されているからだ。右前の角はヤシみたいな木が一本生えている。大きすぎて天井にぶつかって、しなっている。気分は南国といったところだろうか。

 左前には桜の木だろうか。花が咲いていないので確信はないが、葉っぱは桜餅のものと同じ気がする。そして右後ろ。苔がばぁーっと広がっている。毎日こっち側に増えているんじゃないかという勢いだ。よく見ると小さな森みたいだし、癒される。触り心地もいい。それでも、ひしひしと生命力を感じる。上に座るのはためらわれる。

 左後ろは岩がいくつか積み重なっている。そしてどうやら、水が流れている。僕がいるところ以外は土だから、この水がこの部屋を支えているのだろう。別に、僕がいるところもコンクリートやアスファルトではなく、上面が平らに整えられた石がはめられているだけだ。

 右後ろは砂浜のようだ。ちゃんと、一日のなかで海水で湿っているときと乾いているときがある。まるで、この箱の向こう側には海が広がっているようだ。


 と、まあこれが部屋の環境だ。まだ、動物については述べてない。海のあたりには小さなカニがちらほら、岩から流れる水の中にはメダカっぽい魚がいる。苔のところにはそういえば一昨日からきのこが生え始めたし、小さなありがいる。ときどき、獲物を運んできたりもしている。ヤシのところにはヤシの実が落ちているくらいだ。硬かったけど中身はおいしかった。


 ちなみにここにいると、不思議と空腹にはならない。ヤシの実を割ったのは興味からであって、何か飲みたいとか食べたいとか思ったわけじゃない。空気は非常に新鮮な気もするし、気が滅入ることもない。海の音が時折するし、水の流れは常に聞こえる。海の向こうにいると思われる鳥の声も一週間前はした。だから、寂しくもない。一つだけ気になるのは、ここが何か、だが、住み心地はいいし、別にどうでもいい気がする。



 博士、大統領にご説明を。

「はい、これは近年見つかった、ヒトという生き物です。」

 それは知っておる、この環境は何なのかね。

「それが、ですね。はい、よい質問です。現在、ヒトの再現が終わって間もない時期でございまして、いわゆる地球の解明が進んでおらず、当時のヒトがどのような、、、」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る