ガラスの靴の真相

 ここは王室御用達のガラス工房。ガラス職人が何やら言っている。

「王子様、どうして、こんな小さく履きづらい、ガラスの靴がご入用なのですか。」

「別に関係ないでしょう。私の言う通りに作っていればいいのですよ。」

「しかも、片方だけ。」

「いいから、作ればよいのです。」

「失礼しました。おっしゃる通りです。」


 こちらは執事室。王子様が執事に話しかける。

「いいな、今月も、舞踏会の手配よろしく。呼べるだけの美女を呼ぶようにな。」

「かしこまりました。」

「あと、靴は私が工房に行って頼んでおいたから、何もしなくて良い。」

「お言葉ですが、先月つくったばかりのガラスの靴がございますが。」

「あれだと、ダメなんだよ。あんな普通の靴では。」

「それでは、宝石売りに頼んで装飾を派手にしてもらいましょうか。」

「そういうことではない。履きづらい靴がいいんだ。」

「それは、どういう意味でございますか?」

「お前には関係ない。それよりも、ちゃんと招待客の封筒は女性の分は二つずつ用意してあるんだよな。」

「はい、毎回、そのように、とおっしゃいますので。」

「それなら、よい。では、今回もよろしく。」



 舞踏会当日。宴もたけなわ。参加者に呼びかける王子。

「今日は本当に楽しかった。みんな、ありがとう。気をつけて帰ってね。では、また。」

 拍手を受けながら、王子は礼をする。そして、参加者を見送る。


 翌日。執事が騒ぎ出す。片方だけのガラスの靴を見せながら、

「王子様、階段にこんなものが。」

「これは、ガラスの靴じゃないのか。昨晩、だれかが帰り際に慌てて、脱げてしまったのかもしれない。」

「そうかもしれません。」

「では、昨日の参加者、女性のみでよいから全員にもう一度、手紙を送れ。ガラスの靴の持ち主を探している。その女性と私は結婚したいと書くのだ。」

「仰せのままに。」



 翌朝、女性たちが集まっている。それを見る王子。

 みな、結婚したい一心で、苦しみを我慢しつつ、なんとか頑張って履こうとするも、履けない。女たちは、自分の靴ではないと分かっていながらも、残念そうな顔をする。

 王子様もそれを見て、

「あなたではなかったのですね。また、今度の舞踏会でお会いしましょう。」なんて言っている。誰一人として、靴が合うものはいないと分かっているのに。


 王子は内心笑っている。というか、これが、ダンスよりも、何よりもの至福の時なのだ。自分となんとか結婚しようと、へんてこな靴に頑張って足を入れようとする女性を眺めるのが。

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