蛍光灯のチカチカ

 視界の端でチカチカと、気になる。そう、蛍光灯だ。一年に何回か学校の蛍光灯っていうのはチカチカする、と相場でも決まっているのだろうか。そして、毎回みんなで気づかぬふりをしながら、やりすごし、誰かが言い出すと、気になってた。と言い合う。よくあることだ。そう、これはただのイライラするきっかけだったはずだ。


 チカチカする蛍光灯が気になりすぎて、朝から、僕は先生の目を盗みながらずっと見ていた。黒板の方を先生が向いているときずっと。だれか、僕が見つめていることで切れかかっていることに気づかないかな、なんて思いながら。


 じっとみないでよ レディに失礼よ


 はあ、レディとか自分で言うか?普通。と心の中で文句を言ってから、僕はだれに文句を言ったのだ、と気づいた。授業中、この先生は話がおもしろいとかで、みんな前を向いているし第一、自分のことをレディなんていうクラスメイトはいない。


 ここよ、ここ。見てたわりに気づかないのね。それも当然かしら。いると思わないものね、こんなところに私が。お、やっと気づいた。


 上だ。蛍光灯を吊り下げる棒にバレリーナみたいな恰好をしたミニチュアみたいな女の子が寄りかかっている。


 そう、私よ。また、チカチカしてるなんて思って見てたんでしょ。あれは毎回、私がちょっと外の世界が気になって出てきてるだけなのよ。それで、たまたま、今回あなたに見つかったってわけ。よく見えたわね。


 まあ、声したし、眼鏡かけてるし。うん。それより、きみの声はしないのに、きみが言いたいことは分かるよ。なんで?


 それは、まあ、私にそういうことができるからよ。うん。そもそも声はないの。私。だから、こうやってたまに外を見るのと音を聴くのが楽しみなの。人間と話したのは私、これが初めてだわ。もっと騒がれるかと思ったけど、反応薄かったわね。


 まあ、別に、、、。驚いてなかったわけじゃないよ。うん。


 あら、そう。じゃあ、いいわ。これ、もしかして、授業終わってしまうのかしら?そろそろ。


 うん、そうだね。あと5分。


 じゃあ、そろそろお別れね。


 え?


 だって、あの先生、いつも早く気づくのよ。みんなの時もそうだった。そうしたら、お別れよ。


 なんで?


 私はこの蛍光灯に住んでるの。家を持ってかれたらついていくしかないわよ。


 ああ。うん、、、。


 何よ、煮え切らないわね。最後ぐらい授業聞いたら?変に目立つわよ。そしたら、私の家も持っていかれちゃうわ。


 確かに、そうだね。 僕はやっと黒板を見た。


 じゃあね。


 そんな声がした気がする。僕の右上の蛍光灯が消えた。

 もちろん、ただの蛍光灯だ。

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