霊能者
今日も疲れた。なんだよ、祖母ともう一度話して「ゆうくんはね―」の続きを聞きたいって。そのあと、郵便屋さんが来てしまって続きを聞くことはなかったらしい。それで、そんなことは忘れて外に遊びに行ったりして、一週間の帰省の最終日が終わってしまい、次に会ったのはお葬式だったということらしい。だから、ちゃんと注文通りに、というか、これが仕事だから当たり前なのだけれど、おばあちゃんになった。「ゆうくんはね、人の気持ちが分かる子だね」って言っていたらしい。俺は。まあ、俺はこうやって依頼人からしか、そのときの俺の話を聞けないわけだが。
今日の晩御飯は肉じゃがが食べたい。といっても作れないから、定食屋さんで頼むメニューが決まっただけだ。車を走らせながら、おばあちゃんがよく作ってくれた手料理は肉じゃがでしたって依頼人が言っていたことを思い出した。それも、自分が好きみたいで、自分が一番食べるんですよ、とも言っていたはずだ。それなら、俺にも少しその好みが移ったのだろうか。ラベンダーの芳香剤のにおいがする車内でそんなことを思う。そういえば、昔は花なんて興味がなかった気がする。そして、短命だった花屋さんの店長にもう一度会って、花言葉を教えてほしいという依頼があったことを思い出した。
着いた。肉じゃが定食を頼む。なんか、店員にお前はミックスフライ定食って顔だろ、みたいな顔をされた。今日の依頼人にも、お兄さん、霊能者って顔じゃないですねって言われた。タバコを吸うのは顔通りですけど、と畳みかけられた。肉じゃがはおいしい。その話し方もどうなんですか、霊能者として、そのぶっきらぼうな感じとも付け加えられた。確か。俺も、昔はこんな口調じゃなかった気がする。そういや、前、中学の友達とここであったときにお前、変わったなぁ、教室の隅で本読んでるタイプだったろ、と言われたこともあった。
肉じゃがに満足しながら、トレーを返しに行って、店を出る。車の色はライトグリーン。これも、俺の好みじゃないのかもしれない。
車の中でいろいろと考えながら、自宅についた。すぐ風呂に入る。
そしたら、明日の依頼の確認だ。これはルーティーンだ。一日に二件あることもあるが、明日も一件だ。ええと、ご夫婦からのご依頼。匿名希望。
すっかり、性格も風貌も変わってしまった、息子に会いたいです。高校を出たあと、仕事を始めたらしいのですが、何の仕事かは教えてくれず、それでも年に数回は会っていたのだけれど、今では音信不通です。あの頃のおとなしかった、息子に会いたいです。
だとよ。死んでない人を下ろしてくれという依頼は珍しい。まあ、なんとも、息子思いなのか、エゴを押し付けてるのか、よくわからない、依頼だなとだけ感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます