立ち尽くすのみの恋
人間っていうのは自分たちが世の中を征服してると思ってるらしい。最近になっては、支配者を僭称したうえでで地球にやさしく、環境にやさしく、などと言い出している。まあ、人間が世界を支配してるかなんていうのは、僕たちにとっては問題ない。
人間たちは、いつも僕たちの顔色をうかがっている。そうすることになっているのだから、当たり前なのだが。僕たちを見る目は本当に人それぞれだ。じっと見つめてくる人。これは小さな子に多い。まだ、ルールが分かっていない子も多い。暇そうに待つ人。別に僕たちは悪くないのだけれど、申し訳ない気分になってくる。虹とか飛行機雲が出てきてくれたときは、そっちを向いてくれるから、僕たちの罪悪感も薄れるというものだ。何を考えるでもないようにして、ぼーっと見てくる人。僕たちを見ているはずなのに、気づかないで、反応が遅れる人も多い。
最近僕が気になっているのは、このあたりに越してきた、大学生の女の子だ。学校が近いからなのか、散歩がてらなのか、はたまた、自転車に乗れないからなのか、いつも決まった時間に歩いて僕のところまでやってくる。基本的にはおとなしい子なのだが、それでも、やはり気分の浮き沈みというものがあるらしく、ずっと下を見ているときもあれば、僕に楽しかったことを報告してくれるみたいに、ぱあっと見上げてくれるときもある。彼女に、こんなに振り回されている僕の方が、気分の浮き沈みが激しいのかもしれない。
寒いときも熱いときも僕たちはそのまま立ちっぱなしだ。一本奥に入ったところのおじいさんはもう身に堪えるといつも嘆いている。とは言ってもこちらから顔を拝見したことはない。でも、いつも僕のことを見守ってくれているらしくて、今日もお疲れ様と毎日、声をかけてくれる。早朝の出勤まで一休みだ。
二人組が歩いて来る時などは少し傷つく。だって僕たちは一人でいることが仕事、というか、二人で並んでいても意味はない。いつも、向かい合っているあいつは、恋愛なんかにはたんと興味がないらしい。でも、僕が彼女が通ってきたときに嬉しそうにしているのには、気づいてるらしく、毎回夕方には、ほら、来たぞって教えてくれる。
まぶしい朝。
今日も来た。来てくれた。でも、今日は僕を見てくれない。心ここにあらずという言葉がぴったりだ。大丈夫だろうか、何か悩み事があるなら聞くよなんて、頭の中で思いながら、無理か。僕たちと人間は会話ができない。
ちょうど、「聞くよ」って頭に思い浮かべていた時に、彼女がこっちに走ってきた。
どんっ。
えっ。なぜ、今なんだ。今はだめじゃないか。目の前に倒れた華奢な体を見ながら、僕は青ざめた。
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