ハチ公前で待ち合わせ

 遅い。来ない。おかしい。ハチ公前で、約束したのに。おかしい。なぜだ。なぜ来ない。美希は約束を破る人なんかじゃない。今まで、そんな試しなかった。今、スマホを修理に出してるから、連絡しづらい。ごめん、とか言っていたけど、美希なら大丈夫だと思って、とくに、気にも留めなかった。


 でも、おかしい。おかしい。今日は4月17日の土曜日。今は朝の9時2分。待ち合わせの時間から2分経った。2分なら許容範囲だ。いつもの美希なら、ごめん、とか言いながら、5分遅れで来るはずだ。多分、電車に乗り遅れた、とか、人助けをしていた、とか、そういった理由だろう。


 そう言われたときになんて反応するかを考えておく。そういうミスは誰にでもあるよ、と励ますか、特になにも触れずに、目的地へ向かうか。人助けのパターンだったら、単純に驚き、褒めるだろう。そんな彼女の話を聞きながら目的地に向かうことになる。


 9時5分。5分遅れ。おかしい。でも、まだ、5分だ。もう少し待つことにする。


 9時10分。おかしい。電車の遅延もないみたいだし、何かがおかしい。日付はさっき確認した通り、合っている。美希はそんな人じゃない。何、まだ、たかが10分じゃないか、ちょっと遅れたら、それぐらいにはなる。


 10時。おかしい。あまりにも遅い。心配だ。こちらから、連絡できないのがもどかしい。なぜ、来ないんだ。自分の目の前にいるのがかの有名な忠犬ハチ公の銅像であることを再度確認する。おかしい。これはやはり、ハチ公だし、今日は4月17日土曜日。あっている。何がおかしいんだろう。でも、美希は来るはずだ。絶対に。


 11時。これはさすがに遅れすぎではないか。もう2時間だぞ。でも、寝坊だったら、あり得る。最近、残業続きだと言っていたし、いつもはちゃんと起きれる美希も参ったのかもしれない。そうだろう。そうに違いない。


 12時。おなかもすいてきた。だって、9時集合に合わせてきたんだから、そらそうだ。当然だ。でも、昼ご飯を食べるために、ここを離れでもして、そのときに美希がやってきたら、会えない。いくらあっちが遅れているからと言って、それは不義理というものだろう。そんなことはあってはならない。


 15時。おかしい、まだ来ない。本当だったら、喫茶店にでも寄っていただろうに、まだ、僕はハチ公の前にいる。美希は大丈夫なのだろうか。家にでも様子を見に行きたいが家を知らない。


 24時。おかしい。ついに日付も変わってしまった。美希に心の中で謝りながら、家に戻ることにする。終電には間に合う。


 おかしい。なぜ、あんな律儀な美希が遅れたのだろう。


 家に着いた。ボロボロの郵便受けにかわいいメモ帳が入っていた。



 なんで、家にいないの?おうちデートしてから、買い物って言ってたじゃん。

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