で、誰の身体がよいのか

 起きる。焼いてくれた食パンを食べ、着替えて、最寄り駅まで歩く。いつもの電車に乗る。座れるかどうか気にかける。4駅目で降りて学校に向かう。3階まで歩いて、教室に入る。時計を見て、8時ぴったり、朝礼まで余裕はある。けだるげなおはようの声をあしらいながら、教科書を出す。適当に授業を聞いて、小テストに文句を言ったり、言わなかったりすれば昼食、5限、6限、放課後、部活と進んでいく。


 判を押したような毎日とはこういうことを言うのだろう、と思っていた。何か変わったこと、楽しいことないかな、と思ったこともあった。


 朝起きた。パンは焼かれていなかった。母も忙しかったのだろうか。めんどくさいし、生のまま食べる。着替えて駅まで歩く。電車は待てど来ない。スマホで調べるが、ニュースが流れてこない。学校に電話を掛けるもつながらない。よくわからないから、とりあえず、歩く。一時間も経たないうちに正門の前まで来た。ここまで、車も通ってなかったし、誰も歩いていなかった。さすがに気味が悪い。校門は開いていなかった。無理やり飛び越えると、警報がなった。それでも、誰も来なかった。もちろん、教室にも誰もいない。不思議に思い、窓を開け、外を眺める。


 何かが細く光った。目が痛い。 見えない。 意識が遠のく。


「やった、やっと1人目ですよ。7番隊の奴ら、俺たちの仕事奪ってくのやめてほしいっすよね、隊長。でも、一人残ってましたね。俺、おってがら~」

「違う。手柄なんかじゃない。あいつは残存対象だ。7番隊の連中はそれも分かっておる。よく見てみい、教室の中はもう死体だらけだろう。」

「確かに。俺、グラス、オフのままでした。てへ。」

「おい、聞こえるか、そこのもの。ええと、ファイルを出せ、早く。」

「ちょっと待ってくだせえ。GF546743-67306 の田中純ですね。」

「おい、田中純、起きろ、聞こえるか。さすがにお前、本型のレーザー使ってないよな。」

「はい、というか、まだもらえてません。俺は、、、」


 何も見えないが、意識の隅でへらへらした男の声と、すごみのある男の声がする。顔を上げたいが上げれない。

「生体反応がまだ、あるな。でも、もって数分だな。とりあえず、あれを打て。」

「へい。」


 パシュッ


 前が見える。目の前に球体が浮いていて、人間っぽい2体がこちらを見ている。後ろを見ると、クラスメイトがみな、さっきの僕のように倒れている。


「ほら、田中純よ、もう、聞こえるし、見えるだろう。そなたは本来消す気はなかったのだが、こいつがへまをするから、身体はなくなってしまった。触ってみろ、もう冷たいだろう。」

 自分の横に自分の死体が横たわっている状況がよくわからないが、確かに冷たい。


「それでだ。そなたには生きてもらわねば困る。そこでだ、代わりの器を用意する。で、誰の身体がよいのか」

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