「Watch Me !」

 映画でも見に行くか、そんな話になった。

 一人で家にいても、暇だからとりあえず、都会っぽいところまで行こうと思って電車に乗ってぶらぶらしていた。そしたら、高校来の友人にばったりと会った。いつもよく話したとかいう仲ではないけど、廊下ですれ違ったら話す、それぐらいの心地良い距離感の相手だった。話が面白いとか、ものすごい特技があるとかいうわけではないが、どこか一目置かれていた。なんというか、不思議な人だ。


 そんなやつと会って、男二人で買い物もな、なんて言いながら、ショッピングモールの中の映画館までやってきた。何か、見たいのあるか?と尋ねると、ない。と短い返事。俺もと言いながら、ポスターの前を二人で歩く。子ども向けアニメでもないが、アクションでもない、お互いに、ホラーもそんなに好きでなかった。そんなことを考えていると、大体5本くらいに絞れてきた。この中からって感じか、と言おうとすると、これにする?と振り返って聞いてきた。咄嗟にそれが俺もいいと思ってたと言った。5作の中なら、それかなと若干思っていたのだ。気が合う。チケットを買ってきてくれるというので、ぼーっと立って待っていた。

 タイトルは「Watch Me !」、この短絡的で現金なところがいい。詳細はよくわからないが、現代もののようだ。あいつも、これなんの映画だろうね、と聞いてきた。今日はこの時間だけだって、ラッキーかもね、そう言って笑っている。


 生暖かい。独特のにおい。お決まりの警告の映像を見ながら、想像をめぐらす。どんな映画だろうか、恋愛だったら退屈かもしれない、なんて思う。それより、十年前の俺がこんなことを想像しただろうか、こいつと隣に座って映画。考えられない。隣でのんきに俺が買ってきたポップコーンを食ってる。キャラメル味がいいとのお達しだったから、素直にそうした。スクリーンも見ずに、俺に分けるそぶりも見せず、大きな容器を膝にのせて抱えている。


 段々と暗くなった。ほぼ真っ暗だ。なぜだろうかと思ったが、それは、スクリーンも暗いからだ。ほのかに、スクリーンの中に人影が見えるような気がする。規則的に並んだ頭が見える。しかも全員動かずに前を向いている。気持ち悪い。なんなのだろう。怖くなって隣を見る。ポップコーンはほぼなくなっていたが、彼の手は空虚をさまよっていて、目はスクリーンを見つめている。眠っているのかと思ったが、そうではなさそうだ。俺が見ているのに気づいたのか、急に視線がこちらに来る。


「出よう。気分わるい。」か細い声でそう言われた。上映している中、離席するのは気が引けるが、こいつを一人で行かせる方が心配だ。どんどんと歩いて、ついに映画館を出てしまった。もう、大丈夫なのか?戻って見れるか、聞いてこようか?そう声を掛けると、きれいな目でこうつぶやいた。


「僕たちも一時間半後、ああなるところだった。あの人たちは本当に動けなかった。多分、あれは別の劇場の録画だったんだ。」

 一日に一回だけの上映、少し変わったにおい、Watch Me ! というタイトル。


 今日、こいつに俺は会っていなかったらどうなっていたのだろうか。

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