体温 は 正常です

 最近私は図書館に通っている。別にものすごい本の虫というわけではない。まあ、パソコンを持って行ってレポートを書いたり、適当に本を読んだりするのだが、一番の目的はそれじゃない。再び開館した図書館には、体温を測る機械が設置されていた。それにおでこを見せて体温を測ってもらって「体温は正常です。」と言われれば入館できる。今ではよく見る風景である。


 だから、何も不思議なことはなく、ただルーティーンとして通過すればよいはずだった。だが先日は、そうはいかなかった。体温正常です、と言われた気がしたのだ。でも、聞き間違いだろうと思ったし、何よりそんなところで立ち止まるのはそれこそ正常じゃない。


 翌日も図書館に行った。この機械は2台おいてあるのだが、ちゃんと昨日と同じ方に、緊張しつつ、私はおでこを見せた。「体温は正常です。」と言われた。ああ、よかった、昨日のは勘違いだったんだ、と思うと矢継ぎ早に「性格は?」と言われた。あたりを見回したが誰もいない。いたずらでもなさそうだ。ということは、この機械が言ったに違いない。振り向くのも怖くてそのまま、本棚までまっすぐ歩いて行った。


 次の日。素知らぬふりをしておでこを出すと、体温は正常です。性格は異常です。と言われた。もう、あまり驚きはなかった。やっぱり、そういうことが言いたかったのだ。少し昨日の時点で予測がついていた。謎の安堵を感じながら、その日もパソコンを開いて席に着いた。


 その翌日。私は一大決心をして図書館へ行った。体温は正常です。と機械が言い終わった瞬間に、私は、「将来は?」と返した。機械に向かってしゃべりかける完全にヤバい奴だったが、今日は人の少ない時間を狙ってきたから大丈夫だ。どうせ、何の返事もないだろうと高を括っていたのだが、思いもよらぬ返事がきた。

「見ておきますから、また明日お願いします。」私は何も言い返せずに、そのまま本棚へと向かった。何が起きたかよくわからなかったが、落ち着いて考えれば、また明日来ればいいだけだ。そう思うと心は落ち着き、作業もはかどった。


 約束通り今日も図書館に来た。少し違和感があったが、いつものようにおでこを見せようとすると、ああ、それは後でいいですよ。まずあっち側に立ってください、なんて言われた。私が移動すると、また、話し始めた。

 あなたの将来なんですけど、私が見ても関係ないですね、よく考えれば。私と会話ができてしまった時点で、あなたの将来は決まってしまいました。じゃあ、そこで私におでこを見せてください。

 こう言われて、いつものようにすると、体が固まった。私には歩く人の体温が見えるようになっていた。よく考えれば、ここはもう一台の機械がある場所だった。

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