みんな育ててる

 特別な準備はいらない。どこでも育てられる。こまめな声かけと気持ちが大切だ。


 小一の男の子は入学に合わせて育て始めた。育てるのが大事と授業で教わったのだ。今日も早起きできたね。ひとりで学校にも行けた。すごい。まだ、声掛けのレパートリーは少ないみたいだ。


 中二の女の子は最近、育てるのを再開した。ちょっと前までは、興味がなかったのだが、今では育てないと日常がつらかった。夜遅く、塾が終わって部屋に入るなり声をかける。今日もよく頑張ったね。寝ている弟に遠慮しながら静かに言う。


 高三男子も育ててる。深夜まで勉強した後、教科書を片付けながら、本当によく頑張った。今日のところはこれで終わりだ。さ、寝よっか。こんな感じで眠い目をこすりながらも、彼は毎晩声かけを欠かさない。


 彼のお姉ちゃんも育ててる。大学の課題の提出は終わったし、洗濯もした。昼ご飯は買ってあるし、晩御飯を作れるだけの野菜も買い足した。自分が達成したことを一つずつ口に出して言い聞かせるのも立派な育て方だ。


 中堅サラリーマンも育ててる。毎日毎日、満員電車の苦痛に耐えているのがすごい。ちゃんと、毎日、新聞も読んでるのが素晴らしい。部下たちの相談を聞いたし、上司の長い話も適度に聞いた。それも重要なことだ。


 その妻も育ててる。誰に見られてるわけじゃないけど、今日は効率よかったわ。少し休憩時間があるのもの。クッキー食べましょ。ご褒美をあげるのもよい方法だ。


 小学生の旗振りをする、おじいちゃんも育ててる。今日も子どもたちの安全を確保できた。今までの人生に悔いはなかったはずじゃ。これからも良いことがあるとよいな。


 みなさんもぜひ育ててみよう。どんな言葉をかけたらいいか分からない人は、誰かに代わりに言ってもらおう。


 さっき、廊下に落ちてたごみ、拾って捨ててたよね。すごい。きみも、先生が荷物運ぶの手伝ってたね。すごい。こんな感じで相手のを育ててあげてもいい。でも、自分ひとりでも育てられるようにしておかないと、一人になったときに困る。


 えっ?育てなかったらどうなるかって?はじめは別に何の問題もない。やることが減って楽になるくらいだ。でも、育てていないと、いざというときに困る。夜中、急に目覚めてしまったときとか、友達とばいばいした後とか、自分で決めることが多くなると、特に育ててあげないといけない。これでよかったのか、と自問自答することになる。正解なんてない、そう分かっていても辛いものだ。自分の生活がすさんでしまう。


 こんな文章でよかったのだろうか。おそらく、大丈夫なはずだ。この言葉で私もいま、まさに自分のを育てている。

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