書庫

 下に降りる階段があった。幅は狭く、人が一人通れるくらいだ。降りて左に二回曲がると、着いた。大きな本棚がいくつも並んでいる。書庫Aの文字。それを見て、図書館の地下の書庫にやってきたのだと分かった。どんどん歩いていくと、書庫Bがあった。広くて、人もいない。本当はいるのだろうけど、かなり静かだ。静謐という言葉はこういうときに使うんだろう。


 あたりを見回す。自分の知った本がないから、落ち着かなかったが、新聞の縮刷版のコーナーがあった。ちょうど自分の誕生日と同じ日から棚が始まっている。各社の棚を見終えた。最後の日付は今日になっている。隣は写真集のコーナー。写真集はどれも、共通点がないように見える。その後ろに、リングファイルが並んでいて、几帳面にA4の紙が綴じられている。適当に手にとる。


 2015.7.20 夏休みが待ち遠しい。遊ぶ約束をした。海と山で揉めたけど、結局、海の見える山になった。

 2015.7.21 集合時間を決めた。早起きは嫌だけど、楽しみ。

 日記みたいなものだろうか。海の見える山ってどんなんだよって思ったけど、実家の近くにもそんな場所があった。次の紙は、2018.7.22 と書いてあったから、やはり毎日あるのだろう。適当に別のファイルを取る。

 2019.11.23 赤いマフラーが似合ってる。遠くからでも目立ってた。やっぱりかわいい。

 2019.11.24 会えなかった。欠席しているのだろうか。心配。

 2019.11.25 欠席はしてないみたい。ソフトボールで活躍してた。

 2019.11.26 今日も見れなかった。移動教室で廊下を通るはずなのに。

 2019.11.27 はあ、やっぱり避けられてた。教室から出てきた僕を見て、小走りで逃げられちゃった。わかっていても精神的にきつい。

 2019.11.28 今日もだめ。まあ、ダメなのは自分、、、。

 なんか読んでいて暗い気分になってきた。クリスマスとかどうなってるんだろう。一か月ぐらい経ってるし変化もあるだろう。


 2019.12.25 すごい楽しそうだった。声が聞こえてきた。よかった。楽しそうな姿が何よりのクリスマスプレゼントだ。

 これは好転してるのだろうか。そんなことは考えなくてよかった。

 2019.12.26 辛い。やっぱり無理。悪いのは自分だけれど。

 ざっとプリントをめくったが、どれも同じような内容だった。気持ちの良いものでもないし、このファイルが終わったら止めようと思っていたら、紙がなくなった。このファイルは他よりも紙の枚数が少ない。


 2020.1.6 一目見たい気もするけど、また会っても苦しいだけ。最後の最後までこの景色を楽しもうと思う。夜の海もいいものだ。雨は降っているけど。

 これが最後の一枚だった。これは何だったのだろう。戻ろうと思うも、どっちから来たか分からない。


 振り向くと、乾いた土の跡が後ろにあった。

 首の縄の端が肩に当たった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る