ほぼ毎日短編

頭野 融

お得な交通神社

 はれて、夏休みを使って免許を取った。帰り際、教官が「お得な交通神社」ってのがあるよ、と言った。調べてみると、「まじお得 車もらえたw」 とか 「山道で運転の練習できるし、プレゼントもあってラッキー」 なんていう、つぶやきが見つかった。一つ目が最近ので、二つ目のは5年前。その前は遡ってもう10年ほど前。さびれた山奥の神社に行く、もの好きなんて、そういるんもんじゃない。

 一人で行って、仮に車がもらえたら損だから、友達二人に声をかけた。そのうち一人に車を借りる。もちろん、二人とも免許は持ってる。車がもらえたら、帰りはバラバラに帰ればよい。そう話すと、話がうますぎるとは言われたけど、確かに山道はいい練習だし、交通安全の祈願はしといたほうが良い。途中で俺たちが運転してもいい。第一、それ俺の軽だし。と言ってくれた。


 そんなこんなで、山のふもとまで来た。やっぱりここからはお前だろー、と言われ運転を替わる。ナビをしていたほうが、ネットに修理もやってくれるって書いてある。神社なのにすごいね、と言う。登るにつれ予想通り、道は段々と険しくなり、曲がりくねっているから目も回る。軽に男三人はあちぃ。そう言って自分の車の窓を開けたあと、急に威勢の良い声が止まった。助手席のナビ役が後部座席を見ると、窓の外に男は目を凝らしていた。見られているのに気づいたのか、今らせん状に登ってるよな、と前の二人に尋ねた。うん、と短く答えると、じゃあ俺の合図でちょっと右側を見ろよ、多分また見える、と言われた。


 今!


 パッと横を見ると、赤い板のようなものが見えた。明らかに人工物だ。止めろ、見に行こうぜ、と言われブレーキを踏み路駐する。教官がいたら怒られるだろう。様子を見に三人で歩いて引き返す。よく見ると木が揺れている。誰かいますかー、山に向かってそう言おうとしたら、俺の車に早く乗れ、ほら、引き返せ、と急かされた。状況は飲み込めないが、後部座席に入る。お前ら、あれ見えたか?と質問される。車はふもとへと動き出す。何のことだろうか、あの赤い板のことかな、なんて思ってると、


「神主、、、」ともう一人が返事をした。

それを聞いて、運転手は勢いよく振り向いた。軽はカーブを曲がり切れず、崖から落ちていった。


 その様子を神主が上から満足気に見ていた。

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