第21話

 守屋の邸に集った者たちは夜を徹して話し合った。

「とにもかくにも帝が蕃国ばんこくの神を奉ずるなどとんでもない」

 というのは一致した意見である。

「われらが天照大御神をただ一人の皇祖神として祀るというのに、なぜその子孫であらせられる帝がそれを突き崩そうとなされるのか」

 中臣勝海が悲嘆にくれた口調で言うと、

「それもこれも国の政を蘇我の一族が壟断ろうだんしておるからだ。こうなればもはや・・・蘇我を滅ぼすしかないであろう」

 守屋がついにそれを口にした。皆は一瞬、息をのみ互いに顔を見合わせた。頷くものは大勢いたものの、

「一族とはどこまでを言うのだ、先の皇后も日継の御子の御后も・・・つきつめれば蘇我ぞ」

 との疑問の声が上がった。皇后や日継の御子に歯向かうわけにはいかぬ、と心配げな声もあがったが、守屋は、

「なにを。大臣とその子たちを討てば済む。それに泊瀬部皇子を日継の御子と認めたわけではない」

 と声を励ました。とはいえ、竹田皇子が日継の御子にあげておられればよほど激しく反発したのであろうが、泊瀬部皇子という予想外の指名に戸惑っている風でもあった。

「しかし・・・帝が病に伏しておられるこの時に大臣を討つというのはいかがなものか」

「日継の御子を変えるというのも・・・どうなのでしょう?それが帝のご意思であらせますれば。竹田皇子でなかったのは大連に配慮なされたのではなかろうか?」

「いや泊瀬部皇子も所詮しょせんは蘇我の傀儡子くぐつにすぎぬ。蘇我のいいなりになる御方を日継の御子にしておけば、またぞろこうしたことがおこる。ここで掣肘せいちゅうせねば」

「しかし、そこまでは・・・。それを言い始めると揉めるのではないか。ここは三宝に帰依なさるということだけをいさめて止めさせ、日継の御子の話はおいおいと」

 意見は入り乱れた。

「ここは皇統に連なる御方のご意見も聞かねば・・・」

 という声に

「そう言えば・・・」

 と守屋は猪首をぐるりとさせ、辺りを見回した。

「穴穂部皇子がおわさぬ。帰り際に密かに声をかけさせたのだが、まだついておられぬか。誰ぞ、穴穂部皇子のところへ行ってお連れして参れ」

 と大声で命じたのである。

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